第16話 ファルコン vs 訓練生

 追跡チームは程なくして研修所に到着した。あたり一帯は手つかずの自然がどこまでも広がっている。研修所には車がとめてあり、明らかに中に人がいるようだ。

 捜査官が建物に向かって、フィルを解放するように呼び掛けたが反応は無い。クレイがチームに警戒をうながした。

「ファルコンのアバターが出てくるぞ、気をつけろ」

 捜査官達とアレックス、エミー、ミアのアバター三人が建物内に近づいていった。ミアが言った。

「アバターの実戦は初めてだね」

 アレックスが応じた。

「ぞくぞくするな」

 エミーが視線を前に向けたまま言った。

「フィルの解放が目的よ、戦いに集中しすぎず、建物に侵入しましょう」


 そして、ついに突然屋上から二体のアバターが現れた。ジェイスとハウザーである。

「お、若いな。訓練生か」

 ジェイスが呟いた。

 アレックスがジェイスに向かって走り出しながら言った。左手には盾を持っている。

「クレイ、聞こえるか? こいつら壊してもいいかな?」

「ああ、いいよ。俺が許す」

 アレックスは右手でレーザーソードを取り出し、一閃ジェイスに切りつけた。

「おっと危ない。早いな君」

 ジェイスはぎりぎりで刀をかわした。

 エミーとミアは二人でハウザーに切りかかった。ハウザーはとっさに盾で防いだ。

「うわっ。彼女達もやるねえ」

 ジェイスとハウザーもレーザーソードを出すと、五人入り乱れてのアバター同士の戦いとなった。クレイはアレックス達に細かい指示を出している。


 一方、捜査官達はフィルを探し始めたが、まだ建物の中には入れていない。

 最初は少し余裕を持って訓練生アバターに対応していたジェイスとハウザーだったが、次第に彼らの攻撃が鋭くなってくると、応戦が厳しくなっていった。

 建物の中ではリーダーのザックが操作しているジェイスとハウザーに言った。

「倒さなくてもいいから銃を使え。少し時間をかけられればいい」

「了解、ボス」

 二人は銃を取り出しアレックス達に向けて射ち出した。アレックスは後方に跳ねながら叫んだ。

「銃だ。少し下がれ」

 エミーとミアもジェイク達から少し離れ、身をかがめて盾に隠れるようにした。

 アレックスも銃を取り出しジェイク達に向かって発砲しながら、物陰に隠れた。

 すぐにエミーとミアも同じ場所に移動した。ミアが言った。

「どうする? 銃撃戦は経験が足りないけど」

 エミーがすぐ応答した。

「私が接近して何とかする。二方向に別れて援護射撃してくれない?」

 アレックスが動いた。

「オーケー。俺が左側から撃つ」

 体をかすめる銃弾の中アレックスが応戦しながら横に移動し、さらに撃ち続ける。 ミアは隠れている場所から射撃する。

 エミーはダッシュするとジグザグに動きジェイク達に近づいた。素早くレーザーソードも手に持った。彼らは、物陰から顔と銃を出している。

 瞬く間に剣が届く距離に来ると、二人は逃げようとしたが、エミーの剣が速く二人の銃を叩き切った。ハウザーの見開いた目がその驚きを表していた。

 ジェイクが盾でエミーの第二撃を何とか受けると、二人は後方、操作している本人達のところまで逃げた。操作していた二人が言った。

「何だ、あの動き。異常に速かったぞ」

「油断したな。ガキのくせに信じられない操作だ」


 ザックも戻ってきた。

「もう終わったのか。時間稼ぎにもなってないぞ」

「あのガキ達、かなりの腕だ。お前と互角かも」

 ザックは疑った。

「まさか。まあいい。処置は終わったから、ここを出よう」

 そしてザックは通信機で黒幕のガイガーに連絡した。

「ガイガー。もう対処のしようが無い。悪いが先に脱出させてもらうぞ」

 ガイガーは慌てた。

「我々を置いていくつもりか?」

 ザックが答える。

「お前らを拾う余裕が無い。自分で何とかしろ。契約どおりフィルのAIデータは消してやるから安心しな」

 ザック達は車両に乗って逃走を始めた。警察の捜査チームがそれを追った。


 アレックスとエミー、ミアのアバターが研修所内に入った。手錠で縛られ椅子に座らされているフィルがいた。傍にはガイガーを含めて三名のジーニクス社員が立っている。アレックスが言った。

「武器を捨てて手を挙げろ」

 ガイガー達は観念して言われた通りにした。アバターが3人に手錠をかけると、捜査官とクレイ達が同じ部屋に入ってきた。彼らがフィルの元に駆け寄ろうとした時にガイガーが警告した。

「彼に触らない方がいいぞ。爆弾の起爆装置が仕掛けられている」

 見るとフィルの手錠や椅子の辺りから配線が近くの金属のケースに延びている。中に起爆装置が入っているのか? クレイが少し離れたところからフィルに呼びかけた。

「ライアンさん、大丈夫ですか?」

 フィルが答えた。

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

 少し憔悴している様子だが、体は無事な様だ。クレイがガイガーを睨みつけた。

「ガイガー、解除方法を教えろ」

 彼は手錠を繋がれた状態ながら平然としている。

「さあ、わからないね。仕掛けたファルコンの連中に聞いてくれ。私達はライアン氏に一切触れていない」

 捜査官が怒った。

「貴様、ただじゃすまないからな」


 そこへアレックスらパイロットとサラ達もやってきた。サラがフィルに呼びかける。

「フィル! 大丈夫なの?」

「ああ、何とか」

 クレイが状況を説明すると、今度はクロエ社長がガイガーと社員を睨みつけた。

「ガイガー、あなた達、何てことをしてくれたの?」

 ガイガーが弁解を始めた。

「社長。私はAEMの完成を延期させ社の利益を確保しようとしているだけです。本件は役員会で承認をいただきましたよね?」

「こんな事をするなんて言ってないじゃない。あなた、こんな大がかりな犯罪を犯して、何人の政治家がからんでいるの?」

「社長、妄想ですよ。私も、顧客達も本件には関係ありませんよ」

「ガイガー、とぼけないで」

 そこへ、捜査官の端末からヴィンセント・カーライルの音声が聞こえてきた。

「ガイガーさん、今回、捜査のサポートに入っている者です。済みませんが、この件であなたと関与した政治家達は先ほど全て調べさせていただきました。既に、二十三名の容疑者をリストアップし、早速、警察が彼らの拘束に向かっています」

「何い? ふざけるな。証拠は無い筈だ」

「そうですね。メールや監視カメラの映像くらいしかありません。あなたは偽造されたとでも言い張るんでしょうね」

 自信ありげなヴィンセントの言葉にガイガーの表情が硬くなった。

「クロエ社長、ハル研修所にある記憶抽出装置をお借りできますか?」

 ヴィンセントはさらに驚くアイデアを発した。

 ガイガーの顔が青ざめていく。クロエは即答した。

「はい。使ってください」

「ガイガーさん、あなたの記憶を全て吐き出させてもらいます。動かぬ証拠になりますね」

 ヴィンセントがそう言うと、 ガイガーは吐き捨てた。

「くそっ」

 さて、主犯の逮捕にはこぎつけたが、まだ二つ問題が残っている。爆破を避けてのフィルの救出とAEMデータの保護だ。

 山場はまだ先である。

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