第14話 ファルコンとサイドワインダー

 ファルコンはザック・ランバート率いる窃盗を主として活動しているグループである。基本的に人に危害を加えることは無いが、痕跡を残さずに的確に高度な犯行を行うことで知られている。その中の一人ジェイスはクレイが昔から知っている同い年の男である。

 そう、ヘブンでスターバックがアップロードしコピーしたのはこのジェイスとハウザーである。

「クレイ。やつらはもうそこにはいないだろう。気をつけろ」

「了解した。ヴィンス」

 クレイは他のメンバーに伝えた。

「ファルコンというグループが実行犯の可能性が出てきた。連中は先の建物から別の場所に移動している可能性もある。気を付けて探ろう」 


 例の建物に到着した。少し離れたところに車両とトラッカードッグを止め、様子を探った。建物はひっそりしており、人がいる形跡は無い。

「どうやら、移動したようだな」

 一人の捜査官がトラッカードッグの情報を確認して言った。

「この周辺も痕跡が消されています。消されたのは十時間ほど前です」

 他の捜査官が何人かで建物に恐る恐る近づき中に入った。間もなく彼らが入り口に戻ってきて叫んだ。

「誰もいません。しかし人が居た痕跡はあります」

 その時だった。周辺の森から青く光る球体が多数飛び出してきた。青い光の尾を引いており、バレーボールくらいの大きな人魂のようだが動きが早い。クレイが叫んだ

「ファイアーフライだ。金属を溶かすぞ。アバターを出せ」

 ファイアーフライは主に軍隊が使うプラズマの武器で、金属に触れると放電してダメージを与える。 アレックスがコントローラをセットしながらエミーとミアに聞いた。

「あれ、知っているか?」

 エミーが言った。

「習ったでしょ。軍隊が使うやつ」

 ミアも続ける。

「結構動きが早いし触ると放電する。ソードを使うよ」

「花火を切る感じだな。よりやろう」

 三体のアバターがソードを持って駆けだした。

 何十個ものファイアーフライが飛んでくる。車両を動けなくする目的らしい。アレックスが飛んでくる一個に切りつけた。しかし刃はスカッと球体を通り抜けた。

「あれ?」

 それを見たエミーが叫んだ。

「本体は三センチくらいで小さいのよ。中心を切りつけないとだめよ」

「そうか」

 もう一度、今度は中心を狙ってソードを振り切るとファイアーフライはバシッと弾けて消えた。エミー、ミア(のアバター)も一個ずつ切り飛ばして行った。


 クレイや警察、サラ達はその様子を固唾を飲んで見守った。クロエが感心した。

「あの子達すごいわね。ここまでアバターを使いこなすなんて」

 サラが言った。

「昔とは違って今の子達は上達が早いのよ」

 警察のメンバーも目を見張った。

「動きが早すぎて目で追えません。あれ本当にリモート操作で動いているんですか?」

 五分程度で百体以上のファイアーフライは全滅した。三人は各々少し離れた位置で仁王立ちしている。各々のソードは刃がボロボロになっている。ミアが言った。

「やったね」

 アレックスも同調した。

「これは楽勝だったな」


 エミーもコメントしようとした時、足元で何かが動いた。

 クレイが言った。

「エミー、サイドワインダーだ。巻き付かれるぞ」

 そう言った瞬間、それはエミー(のアバター)の脚に巻き付いてきた。ロボットのヘビだ。

「キャー」

 エミーは脚をサイドワインダーに絡まれた状態で、あたりを走り回った。アレックスが落ち着いて言った。

「首をつかむんだよ」

 エミーはそんな余裕はなく、手で叩き、脚をそこらの木にキックしてサイドワインダーを潰した。サイドワインダーは機械部品をばらばらにしながら、やがて脚から剥がれていった。

 ハア、ハア

 アバターにも関わらず、エミーは肩で息を切らした。操作している本人の状態がそのまま現れているのである。エミーが振り絞って言った。

「最悪、ヘビ嫌い」

 アレックスがそんなエミーを見て笑った。

「自分の脚見て見ろよ、傷つけちゃったぞ」

 うう。またやってしまった。苦手なものが出てくると見境いが無くなってしまう。

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