第13話 誘拐犯の追跡

 街を遠く離れて、森と野原だけの場所にきた。トラッカードッグが立ち止まってうろうろし始めた。ミアが聞く。

「なんでこんなところで迷うの?」

 「おかしいな。何の変哲もないところだ」とクレイが答える。

 警察のスタッフがトラッカードッグから情報を引き出しモニターで見せた。

「見てください。このあたりだけ移動の跡が意図的に消されています」

 エミーが不思議がった。

「もしかして犯人がこの追跡の事を知っているって事?」

「ええ。そうなりますね。これは厄介かもしれません」

 クレイが腕組みをした。

「二つ問題がある。一つは追跡が出来ないこと。もう一つはこの先犯人に邪魔される可能性があるということだ」

 アレックスが言った。

「やり合うのはまかせてくれ。絶対負けない」

 エミーも言った。

「私達のアバターなら大丈夫でしょ。人間には危険も無いし」

 クレイも合意した。

「そうだな。何とかなるな。後は追跡だが……」

「痕跡消すのってどうやってやっているのかな?」

「似た車両で何度もぐるぐる同じところを塗りつぶすように回っているのでしょう。そうすれば空間の痕跡が消されます」

 ミアが納得した。

「やっぱり。それなら、これまでの経路を直線的に延長して探していけば、見つかる可能性が高いわ」


 警察スタッフがトラッカードッグをこれまでの進行方向から直線上に歩かせた。

「整列前進」

 すると、トラッカードッグのセンサがまた反応し始めた。みんなから歓声が上がった。

「おし。解決。ミアの勘はやっぱりすごいな」 

「勘じゃないわよ。洞察力よ」

「おみそれしました」


 トラッカードッグを再び走らせて、全員がまた後を付いて行った。クロエとサラの姉妹は後方で走っている車両の中に並んで座っていた。サラは硬い表情で前方のクレイ達が乗っている車両を見守っている。クロエがサラに話しかけた。

「サラ、大丈夫?」

「ええ。大丈夫よ」

「フィルはもう少しで見つかると思うわ」

「そうだといいけど……」

 少し間をおいてからクロエがまた口を開いた。

「フィルと私がアナのアンドロイドを作っているのは覚えているよね」

「覚えてるわ」

「フィルのアナを思う強い気持ちを感じたわ」

「クロエ、ありがとう。私にとっては家族4人で過ごした時期が全てだった」

「たぶん、フィルも同じ気持ちなんだと思うよ」

 サラは四人で楽しく暮らした頃を少し想い出した。リンはまだ小さかったが、四人で色々なところに遊びに行った。幸せいっぱいだった。

「あなた達はまた家族に戻るべきよ」

「――フィル次第ね」


 追跡車両は変わらず静かに、しかしかなりの速度で進行している。トラッカードッグは7匹に減った。はぐれた5匹はどこにいったのだろうか?

 クロエが昔を振り返ってサラに言った。

「私達、学生の頃、二人で争ってフィルにアタックしてたよね」

 格好いいフィル・ライアンと知り合い、最初に近づいたのはクロエの方だった。恋人にはなれなかったが、頻繁に会ううちに、妹のサラもフィルに惹かれて行った。

「パイロットでも競い合ってたね」

 父親のダグは娘二人に幼いころからパイロットの練習をさせていた。クロエは途中から父の後を継ぐために学業に専念した。

「私はパイロットは止めちゃったけどね」

「クロエは私より上手だったのにね」

「パイロットはあきらめたけど、フィルはあなたに渡すつもりはなかったのよ」

「知ってる。ごめん」

 サラが笑いながら謝った。

「まあ、色々あって楽しかったわよ」

「クロエ、元気づけてくれてありがとう。あなたが言う通り私達家族はまた一つになるべきね」

「応援するわ」

 クロエの話でサラは元気が出てきた。まずは誘拐されたフィルを見つけ出して取り戻さなくちゃ。サラは『スイートキャロライン』を口ずさんだ。

「あなたレッドソックスのファンだった?」

「さあ」


 前方の車両の様子が変わった。何か動きがあるようだ。アレックスとエミーがトラッカードッグや端末のモニターを見て話している。

「アレックス。この先に建物がある」

「ああ。トラッカードッグもそこを目指しているようだ」

 クレイは早速ヴィンセントに連絡を取った。

「ヴィンス、怪しい建物に向かっている」

「ああ、こちらでもわかった。そこはファルコンが以前使ったことがある拠点だ」

「ファルコンって、ザックのグループか?」

「そうだ、知能犯だ。ジェイスやハウザーもいる。やっかいだぞ」

「よりによって……」

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