第12話 ライアン教授の救出

 クレイがアレックス達に相談していた。

「犯人を探すのに追跡装置は使えないかな。山岳捜索用のアンドロイド」

アレックスが疑問を呈した。

「飛行体でも追えるのか?」

「あまり古くなければ追える。よし、できるだけ多く手配しよう」

 クレイがアクションを決めた直後にミアがふと言った。

「誰かに見られてる気がする」

 他の三人が周りを調べた。

「いや、大丈夫だ。誰もいない。ミアは勘が鋭いからな」

「そう。良かった」

 虫型の偵察ロボットが飛んで離れて行くのを誰も気が付かなかった。


 その後、クレイはサラの元へ行って夫のフィル・ライアンに関係しそうなことで何か無いか改めて尋ねた。サラは言った。

「ずっと考えているけど、わからないの。もうフィルとは別居してから随分たつし、今回のAEMは反対する人も多いから」

「そうか何か手掛かりがあるといいんだが」

「手掛かりはないけど、さっき父に相談してみたの」

「ダグラス・マイヤー氏か。それはいいかも」

「そうしたら、ヴィンスに相談してみろって」

「ヴィンセントさんか?」

 ヴィンセント・カーライルは鳥の巣の一期生で優秀なパイロットでエンジニアでもある。

「クレイ、あなた彼と連絡取れるでしょ。相談してくれる?」

「オーケー。すぐやるよ。ありがとうサラ、あとはまかせて」

「何かわかったら教えてね」

「ああ、約束する」


 クレイはヴィンセントに連絡を入れた。ヴィンセントはすぐに出た。

「ヴィンス、久しぶり」

「ああ、クレイか。元気にやってるか? 何の用だ?」

「フィル・ライアンが誘拐された件だ。知ってるよな」

「もちろん。お前達も駆り出されたようだな」

「さすが、そこまで知っているのか」

「ああ。それで?」

「警察と検討を重ねてるんだが犯人の見当がさっぱりつかない。ダグの推薦があってヴィンスにも力を貸して欲しいんだ」

「なるほど。もちろん協力するよ。何かこれまでに知っている情報はあるか?」

 クレイは知っている情報を全てヴィンセントに話した。

「わかった。あまり手掛かりはなさそうだな。これから詳しく調べてみるけど、まずやっぱり怪しいのは政治家だな。またはそれに関係している組織か。一通り調べたら連絡するよ」

「悪いな。よろしく」


 その後、クレイは警察と追跡作戦を行うことになった。朝までにトラッカードッグが到着する。 警察はサラともう一名親族の同行をサラに求めた。サラは姉のクロエにすぐ連絡した。

「と、言う訳で済まないけれど、クロエこちらに来られる?」

「サラ、もちろんよ。私で良ければ行かせてもらうわ。警察と優秀なパイロット訓練生も同行してくれるのよね?」

「ええ、安全は確実だけど、フィルがすぐに見つかるかどうか? このタイプの追跡方法は初めてらしいのよ」

「サラ、もし良かったら、うちの会社のパイロットも連れて行こうか?」

 サラはピンときた。

「もしかして、サーシャのこと?」

 サーシャ・オータムはジーニクス社のアルバイト従業員だが、競技アバターの選手で、ここ一年急激に成長して有名な女性である。サラは何度もスカウトに足を運んだが、訓練所に入るのは断られている。

「ええ。鳥の巣の子達と同じ世代だし、腕はわかってるよね?」

「ありがたいけれど、鳥の巣以外の子に実務はさせられないわ」

「そう、分かったわ。じゃあ私すぐにそちらに向かうね」

「お願い」


 翌朝、用意したトラッカードッグは十二匹。犬型のアンドロイドである。トラッカードッグ達の後ろからは、クレイ、アレックス達とアバター、警察の捜査官が一つの大型車両に同乗して行った。フィルの妻サラと彼女をサポートするために姉のクロエが警察スタッフとともにさらに後方から付いてきている。

 トラッカードッグは走り出していきなり一匹だけが別の方向に走りだした。エミーがアレックスに言った。

「あれれ、一匹だけ明後日の方向に行っちゃったよ?」

「最新のトラッカードッグも精度が今一つだな」

「どうするの? 別れて追う?」

「あいつは放っとこう。トイレだろ。残りを追うんだ」 

「トイレは無いでしょ。アンドロイドよ」

「もちろん。冗談だ」


 しばらくするとヴィンセントからクレイに連絡が入った。

「クレイ、調べたぞ」

「何かわかった?」

「可能性のある組織の内、今活動状況が見えない怪しいのが5グループくらいある。各グループの拠点をマップにして送ったから参考にしろ、近づいたら相手がわかる」

「助かるよ」

「ただし、拠点以外に連れて行った可能性もあるから、その場合は周辺の地図を精査しろ。フィルが監禁されている可能性の高い建物を絞り込める。」

「洞窟とか、木に縛り付けとかでないことを祈るよ」

「いずれにしても目的地に近づいたらまた連絡しろよ」

 そして今度は二匹、また別の方向にはぐれて行った。今度はミアが叫ぶ。

「あー、またよ。コラー」

 エミーが嘆く

「残り9匹、目的地に着くまで何匹残るかしら」

 アレックスが言った。

「犬ぞりみたく、ひもでつなぐか?」

「リモートコントロール機能は無いの?」

 クレイが答える。

「細かい制御器は無いさ。的確に目標を追う警察犬だ」

「GPSは?」

「もちろん付いている。それだけだ」

「トラッカードッグを探すトラッカードッグが必要ね」

 アレックスが結論づけた。

「迷子が増えて行くだけだ。こいつらは遭難救助には使えないな」

 その後も目的地に到着するまで数匹、途中ではぐれることになる。

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