第11話 スターバック 地球を盗む

 ジェイスの質問にスターバックが答えた。

「最初の仕事……そうだな、もう少しコールマンの惑星のデータが欲しいな。リンクチップで見るだけでは物足りない。直接データを抜き取りたい。それを僕の惑星に応用する」

「ハッキングか、彼女に直接情報をくれと言ったらどうなんだ? この世界じゃ人を疑わないんだろ。くれるんじゃないか?」

「どうかな。くれるとしても、それだと僕のプライドが許さない。人の真似してトップになってもうれしくない」

「でも、情報入手したら、結局真似するんだろ」

「それは……ほっといてくれ。僕が考える。少なくともそっくりのものは作らない」

「スターバック君はやっぱり生真面目だな。それで? この世界のシステムは簡単にハッキングできるのか?」

「いや、結構手間がかかる。」

「時間的には?」

「四、五時間……」

「そんなにかかるんじゃ、忍び込んで抜き取るのは無理だろ」

「外部からネットワーク経由で侵入できないのか?」

「無理だ」

 ハウザーが思いついた。

「いっそのことその容器ごと盗んだらどうだ。手っ取り早いぞ」

「そんな大それたこと」

 スターバックは困惑した。そこまでの行為は考えていなかった。

 ハウザーがやれやれという感じで言った。

「何だよ。少し借りるだけだよ。お前達は本当にお人よしだな」

 スターバックは考えた。

(確かに借りるだけなら…… そっと返却すれば、誰がやったかもわからない)

「わかった。それで行こう」

「そう来なくちゃ。さすが賢いね。で、報酬は?」

「報酬?」

「当たり前だろ、ただ働きなんかするか」

「何が欲しい?」

「とりあえず金、あるか?」

「あー、ごめん。ヘブンはそういうシステムでは無いんだ。必要なものは必要な分だけ無料ただで手に入れられる。ただし必要以上の物はもらえない」

「何だそれ、社会主義か。そんなことしたら誰も働かなくなるだろ」

「いや、みんな自主的に働いているよ。そう教育されるんだ」

 ジェイスが驚いてハウザーに言った。

「驚いたな、自主的にだってよ。良く無償で働く気になるよな」

「ああ、ここの連中は頭がおかしいな。なあスターバック。ここでも何らかの娯楽施設はあるんだろ?」

「あるよ」

「仕事が終わったら、とりあえずそこに連れて行ってくれよ。あと地球に戻ったら報酬をくれ。これは地球の金でだぞ。一人百万円」

「百万円というのはどの程度の価値なんだ?」

「そうだな、何ヶ月か地球で生活するのに必要な分だ。わかるか?」

「わかった。それで手を打とう」

 そして三人は実行計画をたてていった。

「防犯システムが無いっていっても監視カメラくらいはあるだろう。周辺にどれくらいある?……」


 翌日、彼らは犯行に着手した。

 小型の飛行体からジェイスとハウザーがロープで降下、窓から侵入した。ジェイスとハウザーは容器を持ち上げてロープに括り付けた。

「重いな。何キロあるんだ」

「五十キロくらいかな。地球を持った人間は俺らくらいだろ。面白いな」

「落とすなよ。帰るところがなくなるぞ」

「オーケー。こんなつまらん星で一生過ごすのはごめんだ」

 ロープで飛行体に戻ると、スターバックが少し青い顔をして出迎えてくれた。

「よくやった」

 上空をしばらく移動していると、急に地上からレーザー光が当てられた。

「何だ、何だ?」

「おい、やばいんじゃないか、何かに検出されたみたいだぞ」

「おい、スターバック! これは何だ、聞いてないぞ」

「いや、僕もわからない。調べてみる」

 スターバックが少し調べてから言った。

「わかった。お宝センサーだ。このままだと数分でレスキューが確認しに来る」

「どうするんだよ!」

 スターバックは素早く調べて言った。

「上だ。3千メートルの上空に行けばいい。機体を全速で上昇させるぞ」

 言うや否やスターバックは上空に向かって急上昇させた。ものすごい加速力が3人にかかる。

「うぐぐー。苦しい」

 ジェイスもハウザーも目玉が飛び出そうになりながら耐えた。十秒とかからずに、機体は5千メートルの高さまで上昇した。下の方では小さくレスキューの機体が動いているが、こちらに気が付く様子は無い。

「ふー。どうやら逃げられたようだな。」

 三人は無事、山に無数にあるシェルターの一つに到着した。


 その日の夕方、エメラルドが自宅に戻ると、妹のサファイアが大騒ぎしていた。

「あ、お姉ちゃん。たいへん。地球が無いよ」

「何? どういうこと?」

「私もさっき帰ってきて、地球を見ようかなって思ったら、無いの、容器ごと」

 二人は家中を探したり、家族に確認したりしたが誰も知らなかった。

「お姉ちゃん、地球は無事かな?」

 エメラルドは端末から調べてみた。

「大丈夫、壊されたりはしていない。どこかに持っていかれただけ」

 サファイヤもほっとした。

「でも一体誰が持ち出したんだろう」

「盗難っていうんだっけ? あり得ないよね」

「どうする?」

「お父さん達に相談しよう」

 両親に相談して、管理センターに連絡することにした。


 すると5分ぐらいで専門家がやってきた。三十代と思われる男性だ。

「こんにちは。管理センターから来ました。マーク・バーンズです。惑星作品の盗難ですね」

「ありがとうございます。エメラルド・コールマンです。よろしくお願いします」

「この地区の盗難事件は5年ぶりです。全力で対応しますのでご安心ください」

 マークはすぐに調査を行った。

 サファイアが小声でエメラルドに言った。

「お姉ちゃん、あの人恰好いいんじゃない? 好みのタイプ!」

「また、サファイアったら」

「エメラルドさん、監視カメラの映像から誰かが作品を持ち去ったことがわかりました。車の行先を調べてみますので、みなさんはこのまま待機していてください」

「あのー、地球の上でもトラブルが起きているので、端末からアクセスしてもいいですか?」

「構いませんよ。何か犯人の手がかりがあったらご連絡ください」

「はい、わかりました。どうかよろしくお願いします」

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