第10話 地球(すいかサイズ)の危機

 警察とのミーティングが解散した後、クレイとアレックスは鳥の巣に戻りエミー、ミアと話すことにした。クレイが状況を説明する。

「今のところ手がかりは無い。犯人からの連絡も無しだ」

「そう。困ったね」

 ミアが言うと、エミーが席をいきなり外した。

「少しだけ確認してくる。すぐ戻るから」

 アレックスが不思議がった。

「あいつ、いきなりどうしたんだ? 何を確認するんだ」

「さあね」


 エミーは離れた部屋にいくと椅子に座り眼をつぶってつぶやいた。最近は時々エメラルドと好きな時間にコンタクトしている。

「あのーエメラルド、エメラルド、応答してくれない?」

「はいはい。何? エミー、ちょっと忙しいんだけど」

「リンのお父さんが誘拐されたの知ってる?」

「あー何となく」

 エメラルドの応答は上の空っぽい。

「地球じゃ大事件なのよ。わかる?」

「ごめん、ちょっと余裕が無い。こちらはもっと大事件かもしれないの」


 エミーは驚いて聞いた。

「は? そちら? ヘブンで?」

「あのさ、地球が無いの」

「へ? 地球が無い?」

「そう。学校から帰ってきたら、部屋にあるはずの地球が無いの、盗まれたかも」

 エメラルドは泣きそうである。

「え? 家族に聞いた?」

「うん。みんな日中は家にいなかったから知らないって」

「朝はちゃんとあった? 家の鍵はロックしたの?」

「朝はちゃんとあった。間違いない。でも家の鍵はかけてない、いつも」

「何それ、ばかじゃない? 他の防犯設備は?カメラとか警報機とか」

「わからない。無いと思う」

「えーっ。ヘブンってレベル7なんでしょ。何そのお粗末な備え」

「ヘブンでは高度な道徳教育がなされるから犯罪ってほとんど起きないの。起こす人はすごく少ないのよ。それが何百年も続いているから、防犯の意識って無いの」

「それにしても、それにしてもだよ。地球だよ。壊されたらどうなるの?」

「あなた達はその瞬間に容器のもくずです」

「エメラルド、あなたやってくれたわね。すぐ探して。警察から何からヘブン中の英知を集めてすぐに地球を取り返して」

「はい、エミーさん。でも警察ってこっちにはないのよ。悪い人にどうすればいいかみんなわからない。私は少し地球で勉強したけど」

「どれだけ平和ボケしとるんだ。とにかく何とかしてって」

「あの、それがあなた達をアップロードしたい理由の一つなの、危機管理ができる人材を……」

「話はもういいよ。早く地球を探して取り返して! 必要ならアップロードでもコピーでも何でもしていいから」

「わかった。そっちも頑張ってね」

 えらいことになった。ライアン教授の奪還も大事だが、エメラルドにヘマされたら地球が消滅する。レベル7の泥棒が地球を大切に保管してくれることを祈るよ。


 ◇ ◇ ◇


―― ヘブンにて ――


 さかのぼることシムプラネット授賞式の日、自称天才のスターバックは自身の三連覇を阻止したエメラルドの作品に目を奪われた。

『地球』だと? 随分きれいな惑星だ。少し見学させてもらえないかな。

 スターバックはエミーの自宅を訪問して地球を少し見せてもらった。そして魔が差して自作のリンクチップを地球の容器に仕掛けてきた。

 その後の一週間スターバックは罪の苦しみに心が張り裂けそうだったが、技術的な興味が何とか勝った。

「いや、こういうことをするのは本当に苦しいな。死ぬ思いだ」

 リンクを通じて地球をしつこく観察した。

「へー。レベル5の人類って意外と賢いんだね。アバターとか使っているよ」

 そしてさらに興味をそそられる一部の人間たちを観察した。犯罪を犯した人達だ。

「こいつら、すごい悪さしているよ。まともな生物とは思えない。なぜ同じ種にここまで悪行ができるのか?」

 最初、スターバックはこれを見て気持ちが悪くなり観察を止めた。しかし体が収まると再び見て、地球人をヘブンに呼びたくなった。


 スターバックはついに決心した。何人かアップロードしよう。レベル5の人間のアップロードは世界初だ。ジェイスとハウザーという二人に決めた。

「ジェイス、ハウザー。ヘブンへようこそ。僕はスターバック。よろしく」

「ヘブン? 天国だって? 俺たち死んだのか?」

 スターバックは二人にヘブンに関して一通りの説明をした。するとジェイスは言った。

「なるほど、ここは地球とは別の進化した惑星か。それで犯罪は一切無いと」

「ああそうだ」

 次にハウザーが言う。

「ずるして金持ちになるような連中はいないのか? 盗みをする甲斐がないぞ」

「君は楽しんで盗みをしているようだな」

 スターバックが嫌悪感を示すとハウザーが平然と言う。

「スターバック。お前は真面目すぎる。そんなこっちゃいい悪人にはなれないぞ」

 ジェイスが突っ込んだ。

「ハウザー、いい悪人ってなんだよ」

「ああ、変だな。一流の悪人ってのがいいか」

「地球人はおもしろいな。野蛮だけど新鮮だ」

「野蛮はないだろう。俺たちはスマートだ。さあ新しい相棒、最初は何の仕事をしようか?」

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