第8話 フィル・ライアンが誘拐された

 ある日、国中をるがす大きな事件が起きた。鳥の巣ではサラやクレイたちはその事件のことで何やら話しこんでいた。エミーがアレックスにきいた。


「アレックス、今朝のニュース見た? どこかの大学教授が誘拐ゆうかいされたんだって」

「ああ、見たよ。なにか重要な人物みたいだけど」

「あれよ、『AEM』って言うAIを使った新しい社会システムを作った人よ」

「ああ、ここんところ革命かくめいとか言って、毎日ニュースで取り上げられているやつだな」


 そんな話をしていたところにクレイが教室に入ってきた。

「みんな、きいてくれ」ただ事でない表情だ。

「今、理事会りじかいではなし終わったところだが、きのうの誘拐ゆうかい事件の対応にわれわれも協力することになった」

 2年生はプロのパイロット並みのうでをもっているので、しばしば実際の事件にかりだされる。今回もそのパターンだ。


「知っていると思うが、誘拐されたのはAIと社会学のスペシャリストのフィル・ライアン教授きょうじゅだ。彼が開発中のAIは法案ほうあん評価ひょうか行政判断ぎょうせいはんだん的確てきかくに行うため……効率的こうりつてき循環じゅんかん経済けいざいの安定が進み、貧困ひんこん解消かいしょう、国民生活の安定が見込まれ……」

 クレイはむずかしい話をしているがアレックスの頭にはさっぱり入ってこない。

 エミーが小声でアレックスに言った。

「かんたんにいうとね、政治家せいじかの仕事がなくなって、国民は楽になるっていうこと」

「ああ、その方がわかりやすいね。クレイとわってくれないか?」


 クレイがつづける。

「そして犯人のプロファイルだが、彼を誘拐ゆうかいする動機どうきがあるのは政治家だけではない。大手おおて企業きぎょう武器ぶき製造業者せいぞうぎょうしゃザヤでもうけるタイプの……」

 エミーがまた通訳つうやくする。

「つまり、誰が犯人かわかんないってこと」

「そう言えばいいのにな」


 クレイが叱る。

「こらアレックスとエミー、ちゃんと聞け。君たちには協力してライアン教授を探してもらうからな。他のメンバーは情報収集じょうほうしゅうしゅうにあたれ」

「はい。わかりました」

「それから重要な事を一つ。ライアン教授はサラ・マイヤー校長のご主人だ。一年生のリン・マイヤーの父親でもある。なんとしてでも彼をとりもどすぞ」

 教室中がどよめいた。アレックスも驚いた。

「わお。リンの父親なのか! それはびっくり。苗字みょうじが違うじゃん」

別姓べっせいを使っているだけよ。アレックス、ミア。今回ばかりは絶対ぜったい失敗しっぱいできないよ」

 エミーは真剣しんけんに言った。

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