第7話 鳥の巣(訓練所)

 エミーが急に上手になったことに、『鳥の巣』の関係者はみなおどろいていた。今や、エミーはアレックスを超える実力がついていた。

 そのアレックスがクレイに食ってかかっていた。


「だから、クレイ。エミーのアバターは普通じゃないって。何か新しいシステムを組み込んでるんだろ、白状はくじょうしろよ」

「アレックス。アバターには何も細工さいくしていないよ。俺もおどろいているんだ」

 アレックスは息を切らせていた。興奮こうふんのあまり松葉づえを使わず、自力で立っている。クレイは一息ついてから説明を始めた。

「アレックス、これはたぶんアバターとパイロットが共鳴きょうめいを起こしているんだ」

「共鳴って何だ? よくわからない」

「二つの波長がかさなると大きな力が出ることだ。まだそのしくみはくわしくわかっていない。もしかしたら、おまえもそうかもしれない」


 そこへちょうど弟のカイル・スプリンガーがアレックスを迎えに来た。一緒に帰る予定だった。クレイがカイルに話しかけた。

「よう、カイル。訓練くんれんには慣れたか?」

「クレイさん。大丈夫ですよ。兄貴ほどじゃないですけどそこそこやれています」

 クレイは帰りかけた二人を見てふと気が付いた。

「あ、そうだ。アレックス、お前杖は要らなくなったんだな。それ、たぶんさっき話したアバターとの共鳴効果だ」


 ◇ ◇ ◇


「スプリンガーさん?」 翌日の休憩きゅうけい時間にリンがカイルに話しかけた。

 カイルはちらりと声の方を見て、ぶっきらぼうに言った。

「リン・マイヤーか。何か用?」

「別に。さっきの操縦そうじゅう上手でしたね。オートとマニュアルの切り替えを頻繁ひんぱんにやるんですね」

「それくらい、君もやっているだろうさ」

「わたしは全部マニュアルでした。今度おしえてください」


 カイルは思った(まじかこいつ。あの動作を全部マニュアルで?)

「オートへの切り替えは知ってるんだろ」 

「知ってますけど、あんなに速く切り替えるのはあまり見たことなくて」

「そうか。いいよ。ひまな時にね」

「やったあ。カイルってやさしいんだね」

「おれの名前知ってるのか?」

「もちろん。アレックスの弟だもん。私のこともリンって呼んでね」

「ああ、リンちゃん」

「ちゃんはよけい。子供じゃないよ」

「十一はまだ子供だろ」

「ちがいます」


「そんな年でなんで訓練所に入ったんだ?」

「わかんない。お母さんに入りなさいって言われたから」

「遊び相手とかいないぜ」

「二年生にたくさんいるよ。あとクレイも」

「そうか」

「一年生ではあなたが最初の遊び相手ね」

「おいおい、いつからそうなった?」

「今から」


 リンはカイルの腕にからみついた。顏がまだ子供っぽいので何ということは無いが、少しはいしきする。

「あまりくっつくなよ。おれは四つ上の大人だからな」

「カイルもまだ子供だよ。顔も赤くなってるし」

 そう言われてカイルの顔がますます赤くなった。

「今日、一緒に帰ろうね」

「ああ、いいかな」


 アレックスが杖なしで歩けるようになったので、別々に帰ることになっていた。帰り道、二人は湖のほとりを歩いていた。リンが話しかける。

「カイルはさ、家に帰ったらいつも何しているの?」

「うーん、たいしたことはしていないよ。ゲームしたりテレビ見たり。あ、でも宿題とかはちゃんとやっているよ」

「偉いねー。私、宿題は学校で終わらせちゃう派なんだ」


 訓練生達は週に二日のペースで普通の学校にも通っている。

「いや、そっちがすごいよ。俺にはできん」

「へへー。ゲームはどんなのやるの?」

「何でもやるけど時間がかかるのはちょっと。ジュディが怒るから」

「お母さん?」

「そうさ」

「アレックスとやったりするの?」

「たまにね。兄貴はトレーニングおたくだから、普段はあまりゲームはしない」

「やっぱりね。今度遊びに行っていい?」

「俺ん家はいいけど、そっちの親の許可ももらえよ」

「はい、じゃあ明日でいい?」

「明日? まあいいけど……」

「アレックスもいるよね?」

「いると思うけど……」

「やった」


 リンはうまく計画できたのでご満悦まんえつだ。

 今度はカイルが質問した。

「リンの家族はどんな構成こうせい?」

「うちはお母さんとアンドロイドのお手伝いさんがいるわ。犬と猫も」

「へーそりゃいいね」

「でもお父さんは別の所に住んでいる」

「何の仕事しているの?」

「何かな。よくわからないけど、大学の先生でAIとかが専門だと思う」

「ふーん。お母さんが元パイロットの校長さん、お父さんが大学の教授ってなんかすごいね」

「二人ともやさしいけど忙しいのが難点なんてんね」

 きれいな夕焼けを見ながら二人はたわいない話をして歩いていった。その日以降、リンとカイルは互いの家で時々遊ぶようになった。互いの母親同士(サラとジュディ)も元々知り合いだったが、より仲良くなっていった。

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