第3話 エミー・サマー
「ミア、ドレスはばっちり?」
エミー・サマーは同級生のミア・ブリッジズに聞いた。二人のアバターはめったに着ることがないドレス姿でぎこちない。ミアは比較的落ち着いた感じの淡いベージュのドレスを着ていた。
「ええ、なんとか。エミーはちょっと派手じゃないの? これディナーのテストなのに」
エミーは真っ赤なドレスに目立つアクセサリーも付けていた。この日は実技テストでアバターの操作をチェックされる。パートは三つ。一つ目は食事、二つ目がテロリストとの対決、そして三つ目がくずれたがれきからの人の救出。
いかにスムーズにアバターを動かして三つの課題をこなすか、それが試される。 訓練生は制御ルームから
「そうかな? まあ、服はどうでもいいよ。アバター越しとはいえ、こういうおいしい料理は楽しみだね。早く始まんないかな?」
「エミーは食いしん坊だね」
そこへ男子が一人寄ってきた。アレックス・スプリンガーである。彼のアバターもスーツを着込んでいる。
「よっ、お二人さん。今日はきれいだね」
「何よ、失礼ね。今日も、でしょうよ」ミアがかみつく
「これは失礼。エミーはナイフとフォークはうまく使えるのかな?」
ばかにするようにアレックスが言う。エミーは自分でも少し心配しているところを突かれて、少しむっとなった。
「ご心配なく。何ならあなたの腕を細かく切りきざんであげましょうか?」
「うわ、おっかね。ちょっとはなれていようかな」
「その方がいいわよ」
スピーカーからスタッフのアナウンスが流れてきた。
「はい、みなさんそろったようですので、席に着いてください。もうすぐテストを開始します」
みな座席に着いた。アナウンスが続ける。
「シナリオを読んで来てくれていると思いますが、今日のテストでは食事の
「アバターは多少こわれてもかまいませんか?」 アレックスが質問した。
スピーカーからべつの男の声が聞こえてきた。OBで教官のクレイだ。
「アレックス。やむを得ない場合を除いてなるべくこわすな。自分で修理してもらうぞ」
「はい。
「他に質問は?」少し待ってからクレイが言った。「ないな。よし始めるぞ」
前菜やスープが次々と配られ、食事が始まった。エミーはフォークの持つ手もぎこちなく、進みが遅い。
「うう、細かい操作は苦手だ……」
操作室ではエミーが指先を小きざみに動かして四苦八苦している。となりのアレックスが声をかけた。
「エミーはコピーモードの方がいいんじゃない?」
パイロットとアバターが同じ動作をするモードの事だ。
「いやよ。
「皿から色々こぼれているぞ」
「ほっといてよ」
「本人も同じくらい不器用なら太らずに済むのにな」
これを聞いたエミーがキレてアレックスの
「冗談だよ。すぐに足が出るやつだな」
「だまりなさい」
まわりの訓練生からクレームの声が上がる。
「そこうるさいぞ」
「試験に集中しなよ」
二人とも少し首をちぢめて、もうしわけなさそうな顔をした。
やがてディナーもかなり進んだ頃、いよいよ
窓から五、六体のテロリスト役が侵入してきた。ダダダダとモデルガンで一斉に発砲し始め、客役のアンドロイドを一人つれ去ろうとしている。
訓練生の一人が「ふせろ」とさけんだ。アバター達は
「ミアとエミーで、いすかテーブルをたてにして反撃できるか? おれは客を助けるよ」 アレックスが答えた。
「いいわ。それでいきましょう」
ミアが
「これじゃあ、簡単に行けないな」
その様子を見たミアがアレックスに強い光を放つ手りゅう弾を見せた。
「これを使うわよ」
「いいアイデアだ、ミア」アレックスはサングラスをつける。
ミアは安全ピンを抜いて、手りゅう弾を敵の方に投げた。まばゆい光が数秒間部屋の中に
アレックスはそのすきに
ミアと他の訓練生も次々に敵を倒して、侵入テロは収まった。クレイのアナウンスが流れる。
「いい
外に出てBポイントに行くと、
「これは、また手が込んでいるな」
「三人も助けなきゃいけないんだよね」
「急ぐか」
アレックスがセンサーを使い、二人の位置を特定できた。
「おーい、みんな、一人はこの手前三メートル、もう一人は右側の奥の少し上にいる。もう一人はわからない。かなり奥か、もしかしたら地下かも」
「上からがれきをバケツリレーで取り除いていきましょう」
ミアがみなをリードしてがれきを取り除き始めた。アレックスがエミーに言った。
「エミー、もう一人を探そう。左側から中心に向かってリザード(トカゲ型のロボット)を入れてくれない?」
エミーがリザードを入れると、三分ほどでセンサーが反応した。
「いた。子供のアンドロイドだ。中央の下の方、がれきのすきまにいる」
「どうする?」
「横から穴を作って行きましょう。私が行く」エミーが提案した。
エミーのアバターは細身なので入りやすい。残り時間が一分になったころ、エミーはようやく子供から一メートルのところまで近づいてきた。エミーは子供を手元まで引き込むと自分の体に巻いていたロープを引いて叫んだ。
「
外にいた数人がエミーを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます