第25話 エリュシオン



 目を瞑りながら必死にお願いをすると、エディに突然声をかけられて、肩を揺らされる。

 エディが何か焦っているのだろう。

 そう思いながら、ゆっくりと目を開ければ、炎に包まれた地上の様子が目に入った。



「……綺麗」



「ルリュ、これは地獄絵図だよ。これを綺麗だと思うのかい?」



 地獄絵図?エディは何を言ってるの?みんな、楽しそうにしてるのに。

 そうだよね?雨が降ったら水に困らない。

 魔物はやっと、自分達で新天地を目指し始めた。

 通ってる場所は人の国だけど、人はすぐに色々なものを作れるから大丈夫。

 それに、誰も亡くなってはいないし、色々な季節を楽しめるのはすごく綺麗。

 なにより、炎が僕の羽根を使った首輪を燃やしてくれた。

 あの城も地盤が崩れて崩壊した。

 城の恵みが、他の人達にも分け与えられる。



「エディ、みんな喜んでる。僕も嬉しい。よく見てよ。今は僕がエディのそばにいる。キラキラがちゃんと見えるでしょ?」



 僕はエディの顔を覗き込んだ。

 すると、エディは寄せていた眉を緩め、金の瞳はキラキラと輝きだす。



「あぁ……そういう事か。生き神を欲していた理由が、漸く分かった」



「生き神って僕のこと?」



「そうだよ。生き神は死と再生であり、世界の命そのもの。けれど、それは今のようにする事もできる。崩壊と再生……死ではなく、一部を壊して新しくする。ルリュが望めば、世界が力を貸す。地上の巣は、その為の媒体にすぎないというわけだよ。勿論、巣自体の役割も変わらないのだけれどね」



 やっぱりエディの言う事は難しい。

 僕では分からない事が多すぎるけど、僕がエディの役に立てたのなら嬉しいんだ。

 エディがもう、ひとりで苦しまなくて済むようにしたい。



「僕がお願いした事……エディは嬉しい?」



「嬉しいよ。ルリュは、神が信者に神託を出すように、世界に神託を出すんだね」



「神託じゃなくてお願いした。ちゃんと、ごめんなさいもした」



「そうだね。ルリュは本当にいい子だ」



 エディに頭を撫でてもらい、褒められた事で僕は尾羽を揺らしてエディに甘噛みする。

 そんな僕達は勿論だが、神々もきっと地上の状況を良く思っている。

 だが、地上の者からしてみれば、ある者にとっては不運であり、ある者にとっては幸運だろう。

 それは、地上のバランスをとるにはピッタリであり、地上の進化を意味していたと、後になってエディと他の神々から聞いた。



 それから月日が流れ、地上には変化があった。

 まず、僕が壊してしまった国は豊かな国となり、更に大きなオアシスとなった。

 そして、魔物達が向かったオアシスの方も豊かな地となり、僕達はその周辺にも巣を増やしたのだ。

 地上の巣はほとんどが仮の巣ではあるが、それでも巣が増えた事と国を一つ壊して進化した事で、僕は転生せずに元気に過ごしている。

 そして現在、僕はエディとともにエリュシオンに来ていた。



「ルリュ、離れるといけないから手を繋ごう。エスコートしてもいいかい?」

 


「んぴゃっ!僕の隣はエディだけ」

 


 エリュシオンに住む者達に見られながら、僕はエディにエスコートされる。

 小さい僕は飛んで行くか、エディに抱えられていた方が自然だが、エリュシオンではエディがエスコートをしたいらしい。

 そのため、エディは僕の手を握り、もう片方の内側にくる手を僕の翼にまわしてくる。



「エディ、今日は何をするの?」



「転生状況の見回りと、ルリュの披露目だね。こうしてルリュを連れ歩くだけだけど、俺のツガイだということは、エリュシオンに知っておいてもらった方がいいからね」



 エリュシオンに知ってもらうってどういうことだろう。

 エリュシオンにいる人達に知ってもらうのとは、また別なのかな。



 そうして、僕達はエリュシオンの中を歩き回り、最後にエディが住んでいたという場所にある、大きな金色の木に僕の炎を灯す。

 すると、そこの木は形を変化させていき、金色の炎を纏った大きな龍となったのだ。



「ピャッ!」



「ルリュ、落ち着いて。不死鳥の姿にならなくても大丈夫。エリュシオンは何もしない」



 エディがエリュシオンと呼んだ龍は、ゆっくりと僕に顔を近づけてきて、フーッと息を吐くと、龍は鼻で僕の全身に触れてきた。

 何かを確認している様子で、僕が動けずにいると、龍はエディに目を向ける。



《ツガイ。エリュシオン……愛しい》



「そう、俺のツガイだよ。それはエリュシオンのツガイでもある……けれど、ルリュは俺のツガイ。分かるね?」



《エディ・エリュシオンのツガイ。エリュシオンのツガイ……ルリュ・エリュシオン》



「んっぴゃあ!ルリュ・エリュシオン!僕だ!」



 エディと龍の会話は理解できなかったが、僕はエリュシオンにもツガイとして認められたように思い、嬉しくなって叫んでしまった。



《可愛い。愛しいツガイ》



「ルリュは可愛いけれど、俺のツガイだからね。エリュシオン、勘違いはしないでほしいな。キミは俺で、俺はキミだけれど、本体は俺だよ。キミはこのエリュシオンにすぎない」



《そうだ。知っている》



 やっぱりよく分からないけど、この龍はエリュシオンそのもので、エディが本体なんだ。

 じゃあ、僕はエリュシオンのツガイだけど、エディのツガイなのは変わらなくて……何も変わらない?



「僕はエディのツガイだ!」

 


 胸を張ってツガイだと宣言すると、エディは「そうだね」と言って頭を撫でてくれ、エリュシオンである龍も僕に大きな鼻で触れてきた。




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