第24話 闇の真実(sideエディ)



 ルリュの言葉は、俺の世界を変えてくれた。

 ルリュの存在は、俺の世界を色鮮やかにしてくれた。

 ルリュの炎は、俺の心を優しく包んでくれた。

 ルリュは、俺にとっての唯一であり、愛しいツガイであり、俺の命だ。



 ルリュはきっと、あまり深く考えてはいないのだろう。

 それでも、そんなルリュに救われた。

 ルリュを想うあまり、ルリュを利用しようとする者が憎くなる。

 エリュシオン逝きの者達は、ルリュと重ねてしまう。

 ルリュと出会う前は、憎いなどとも思えず、何も考えないようにしていた。

 それが、ルリュをきっかけに見方が変わり、いつの間にかエリュシオン逝きとなる者を、厳しくしてしまっていた事に気がついた。



 選定を甘くしていたつもりだったが、無意識に厳しくしていた結果、俺がルリュを死に追いやっていたのだ。

 ルリュのせいにするつもりはないが、ルリュと重ねてしまった事で、エリュシオンもこの庭と重ねてしまい、無意識に拒絶してしまっていた俺は、ルリュとの時間も空間もルリュ自身も全て、守りたかった。



「エディ、大丈夫?僕の顔に何かついてる?」



 ルリュを見つめながら、今までの自分を振り返っていると、ルリュは不安気に眉を寄せる。



 ルリュは、俺が無意識にでもルリュを死に追いやっていたと知ったら、俺をどう思うかな。

 俺の頭の中も心も全て、ルリュのことばかりでは、さすがのルリュも気持ち悪く思うだろうか。



「ルリュ、愛してる」



 本当に……これほど重い愛を俺は知らない。

 この先を知っている者がいるのなら、教えてほしい。

 俺が、ルリュを愛するあまり、自分の手で殺してしまう前に――



「んぴゃっ!僕もエディが大好き!エディ、エディの知ってるもの、全部教えて。僕はエディを理解したい」



「そうだね……なら、今度は人の住む場所へ行ってみようか。勿論、姿は隠して行くからね。一番酷い場所を見てみよう」



 人間達の城は、いろいろな者がいる。

 隠しているものも多く、魔物を捕まえて仲間を襲わせる特殊な狩り。

 それには、ルリュの羽根が素材に使われている事を、ルリュに知ってほしい。

 悲しんで、傷ついてしまうかもしれないけれど、ルリュには俺がいるからね。



 それから数日後、俺はその場所にルリュを連れて行った。

 捕まえた魔物には、ルリュの羽根が素材として使われている首輪をつけ、殺しても死なないようにされる。

 その首輪をつけられた者は、ルリュの羽根に残る炎で、魂が焼き尽くされるまで死を繰り返し、仲間を襲わせ、狩った仲間は食料や素材、酷い時は見せ物として標本に使われるのだ。

 ルリュの羽根は、強制的にルリュと同じような存在となるのだが、違いがあるとすれば、魂が焼き尽くされてしまう点だろう。

 ルリュの場合は命を燃やしていた事で、魂が焼かれることはなかったが、この首輪は違う。

 元々自分のものでない強大な力を、制御することなどできないのだ。



 俺は、ただただ涙を流すルリュを抱えて庭へ戻り、ルリュが一番安心できるベッドの上の巣に連れて行った。

 喜んでもらいたくてあげていた羽根は、誰かを苦しめる事に繋がっていたのだ。

 確かに、喜んでいる者はいる。

 しかし、そんな中で苦しむ者がいるなどと、ルリュは考えもしなかったのだろう。

 むしろ、そこまで毎回考えていては、何もする事などできず、自分で自分を縛るようなものだ。

 だが、ルリュは闇を知ってしまった事で、気持ちが追いついていない。



「ルリュ、悲しかったね。辛かったね……苦しかったね」



「エディ……ぼくは、わるいこと……したの?」



「それはルリュが悪いわけではないよ。全ては、使う者次第なんだよ。ルリュの羽根で、病気が治った者もいる。瀕死から助かった者もいる。勿論、ルリュの炎の効果は抑えつつ使われているから、魂が焼かれることはない」



 実験で、最初のうちは犠牲者も出てしまった。

 けれど、これは言う必要のないものだ。

 ルリュをこれ以上追い込む必要はない。

 必要以上の傷は、ただ苦しめるだけで、絶望しか生まれない。



「ルリュ、助けられた者もいたんだと知っていて。その者達はもういないし、ルリュの羽根を使った薬もなくなってしまっているから、見せてあげる事ができないけど、その者達は最期までルリュに感謝していたよ」



「……ほんとう?ぼく、助けになれた?」



「助けになれていたよ。ただ、あの首輪は俺達がどうにかしてあげられるものではない。地上の者達が、解決しなければならないんだ。ルリュも、もう手出しする事はできない。分かるね?」



「んぴゃ、わかる。ぼくは……エディのツガイで、生き神。だから、ごめんなさいして、お願いする」



 ……ん?誰に願うんだい?まさか、真ノ神に願う訳ではないよね。



「ごめんなさい。僕がやりました」



 それは何か違うんじゃないかな。

 可愛らしいけれど、何かが違う気がするよ。



「魔物を助けてください。僕の首輪から、みんなを助けてください」



 そう言ったルリュは、翼を広げて七色の炎を纏うと、瞳の色が金色に変わり、地上が騒がしくなった気配を感じる。

 そこで、炎で地上の様子を映し出すと、砂ノ神セトゥルスの怒りの時以来の、スタンピートが起こる。

 それ続くように、水ノ神ネイストの深い悲しみのような自然災害。

 風のような早さでうつり変わる季節は、風ノ神シューウが寝ぼけた際に稀に見る現象。

 それから、雷ノ神ヌービシアのような雷が落ち、地上は火の海となって炎が首輪を取り込むように、全てを燃やし尽くしてしまった。

 



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