第23話 エディの見ている世界
カークに守護を任せ、僕達は他の巣を作る為に移動した。
エディは僕が眠っている間に、巣を作る場所を決めていたらしい。
そのため、スムーズに予定地に着き、僕達は次々と仮の巣を作っていった。
仮の巣は、エディが板で安定させた所に、僕の小さな巣を作るというものだ。
小さな巣は、僕が不死鳥になって漸く入れるくらいの大きさであり、地上にいた頃に作っていた昔の巣よりも更に小さい。
「――エディ、これで終わり?」
「そうだね。とりあえずは大丈夫だと思うよ。仮の巣は完成させてもいいけれど、様子を見て大丈夫そうなら、仮の巣を増やす方がいいかもしれないね」
「どうして?何か違いがあるの?」
「うん、仮の巣は完成した巣よりも
良い事が悪い事になるの?難しい。
エディには、どんな未来が見えてるんだろう。
僕も、エディの見てる未来が見えるようになるかな。
「ルリュが理解できる例で言えば、オアシスがそうだね。砂漠の地に水がある。その場所に人々は国をつくった。生き残る為には仕方ないのかもしれない。それでも、そこに住んでいた魔物や動物はいなくなってしまった。代わりに、砂漠に適応できる肉体を持ち、新たなオアシスが出現すれば、そこを守るように強さを身につけた。すると次は、人々が新たな食料や素材を求めて、オアシス内に住む生物を狩り始め、皆が命の奪い合いをする」
「でも、それは生きる為だよ。僕は争いが好きじゃなかったけど、どんな種族でも生きるのに必死なだけなんだ」
「それはそうだね。ただ、それだけではないんだという事は覚えておいてほしい。特に、人は欲が強くなる傾向にあるからね。今ある幸せに満足せず、更に更にと求める。それは悪い事ばかりではないけれど、タルタロス逝きを生み出すのも、その欲が原因だからね」
エディの言ってることは難しい。
でも、エディは少し怒ってるのかな。
「エディ、怒ってる?」
エディの顔を覗き込めば、エディは困った様子で笑い、僕の頭を撫で、そのまま頬を撫でられる。
「これは、俺がルリュを大切に想っているだけで、地上の者達はただ生きているにすぎない。そういう生き物だと分かっているはずなのだけれどね……ルリュのことになると、俺はルリュに対する全てのものが許せなくなる」
そう言って、エディは僕を抱えると、そのまま庭へと戻ってきた。
庭に戻れば、エディは僕に頬擦りをしてきて、僕の羽づくろいを始めてしまった。
この話題は、もう終わりだと告げられているようで、僕も理解ができないなりに、エディの一番の味方であるべきだと思った。
僕はきっと、人の味方をしたような言葉を選んでしまったのだろう。
そう思い、反省しながらも、エディを理解したかった僕は、エディの見ている世界を見せてほしいとお願いした。
すると、エディは驚いた様子で目を丸くし、真剣な表情になる。
「俺の見ている世界はあまり良いものではないよ。優しいルリュが耐えられるかは分からない。ルリュがいる世界はキラキラして見えても、ルリュがいなければ、それも酷いものだよ」
「どんな風に酷いの?それはエディが知ってるものなんだよね?」
「例えるなら……色もなく、音もなく、ただ優しい者だけが幸せを分け与える。そんな世界だよ。優しい者だけが損をし、優しい者だけが……まるで、使命でもあるかのように」
「それでも、エディが見てきたものを見たいんだ。僕にはエディがいるから大丈夫。昔のエディには僕はいなかったけど、今はエディにも僕がいるよ」
僕はエディを抱きしめ、七色の炎で包んであげると、エディはほんの少しだけ涙を流した。
涙は僕の頭に落ちてくるが、ポツポツと二回落ちてきただけで、すぐにエディの涙はなくなってしまう。
エディの心が泣いてる。
エディもひとりで寂しかったんだ。
世界が辛いばかりじゃないって、僕は知ってるよ。
報われないことなんてないんだから。
「ルリュのような優しい子が、一番の幸せをつかんでほしい。できるなら、生きている間に」
「エディの言う優しさが分からないけど、僕は幸せ!エディのツガイで幸せ」
「本当に?俺はルリュを縛ってしまった。ルリュを幸せにしたいと思っても、自由な翼を奪ってしまった」
「僕の幸せは僕が決めてるんだ。翼だって奪われてない。エディが僕の幸せを不幸にしないで。僕はエディがいるから幸せなんだ。エディの目には、僕が不幸に見える?キラキラしてない?」
エディがあまりにも"優しい者"に対する考えを難しくしているため、僕でも分かるように言い返した。
すると、エディはまたしても驚いた様子で目を丸くする。
次の瞬間、何かが抜け落ちたようにスッキリとした表情になり、それでいて穏やかな微笑みで僕を見つめて「ありがとう、ルリュは綺麗だ」と、優しい言葉を贈られた。
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