第21話 見合う自分



 庭に帰ってからのエディは、僕の羽づくろいに集中し、僕を愛でては口づけをしてくる。

 そして、ジィ様に触れた足の裏と、カーバンクルが擦り寄ってきた僕の足を、何度もエディの炎で包み、匂い消しをしているのだ。



「エディ、ごめんなさい。匂い、消えない?」



「いいや、既に消えているよ。それでも、俺の気が済まないだけ。群れの者なら許せても、それ以外の者がルリュに触れて、ルリュに匂いを残すことが許せない」



 匂いを残す……エディに匂いを残すのも僕だけだよね?エディからは、ジィ様の匂いがしない。

 ずっと僕の羽づくろいをしてるから、匂いが消えたのかな?よく分からないけど、だんだん眠くなってきた。



「エディ……ねむい」



「眠っていいよ。暫くは、地上へ行く必要があるからね。ゆっくり休んで。おやすみ、愛しいルリュ」



「おやすみ……だいすきなエディ」



 そうして僕は眠り、次に目が覚めた時には、僕は群れに囲まれていた。

 勿論、エディはそばにいない。

 エディの気配がなかったために起きたのだから、当然だろう。

 それでも、起きた時にエディがそばにいないのは寂しいのだ。



「エディ、エディ……僕、起きたよ。迎えに来て」



 エディの姿を探しながらエディを呼べば、エディはすぐに来てくれた。



「おはよう、ルリュ。寂しかったかい?ごめんね」



「んぴゃっ、寂しかった。僕を地上に連れて行ってくれてたのに、今日は連れ行ってくれなかった」



「……眠っている時の記憶があるの?」



「んぴゃっ!エディのことだけは分かるようになった!エディがそばにいないと分からないけど、エディのことが好きだから分かる。言葉は聞こえなくても、エディの感情は分かる」



 僕が、エディのことしか考えないようになってからなんだ。

 エディは、初めから分かってて言ってくれたのかな?地上に行く為の約束だけど、それでも僕の知らないエディのことを知れるのは嬉しい。



「記憶があるのなら説明しようか。ルリュはたまに起きない時があるんだよ。けれど、俺がルリュから離れれば起きてくれる。離れ難くても、起きないルリュを見ていると、不安になってくるものでね……離れざるをえないんだよ。ごめんね」



 そうだったんだ。

 だからエディは、不安で寂しそうにしてたんだ。



「もっとエディのことだけ考えたら、エディの言葉も聞こえる?僕、どのくらい寝てるのか分からないから、エディの言葉が聞こえたら起きられる」



「ルリュが眠っている間は、俺も喋らないよ。神との話し合いがあれば別だけどね。それに、ルリュが長く眠る時は、どんな事をしても起きないからね」



 そう言ってニヤリと笑うエディに、僕は顔が熱くなる。

 なんとなく分かっていたが、たまにエディが幸せを感じている時があり、なんとも言えないドロッとしたような、暗い感情が混ざっている時があるのだ。

 それに、お腹のあたりがジクジクと熱い。

 明らかに、僕が寝ている間にイタズラをしてきているのだろう。



「エディは……眠ってる僕を襲うのが好き?」



「ルリュがどんな状態だろうと、俺はルリュに発情できるよ。たとえ死を迎える寸前だろうと、転生してすぐだろうとね」



「ピャッ!転生の後は駄目」



「どうして?ルリュには年齢という概念もなければ、転生しても変わらず大人で、再び時間を刻んでいく。ルリュの死も転生も特殊だからね」



 僕だって分かってる。

 それでも、転生後は駄目なんだ。

 僕……灰の匂いがするんだもん。



「匂いが気になるんだ。エディを好きな今、転生した後のあの匂いを、エディにかいでほしくない。恥ずかしい」



「匂い?まさか、あの転生後の独特ないい匂いのことを言ってる?灰の匂いだよね。すごくいい匂いがして、ずっと抱きしめていたくなる、愛しい匂いだったけれど」



 エディがあまりにも真剣な表情で言うため、さすがの僕もエディから目を逸らしてしまい、エディの嗅覚を心配してしまう。

 あの匂いがいい匂いだと思えるエディは、炎ノ神だからかもしれないと思いながらも、やはり嗅覚が心配になってしまい、僕は自分の抜けていた羽根を燃やしてみた。



「エディ、これはいい匂い?」



「勿論だよ。ルリュの愛しい匂いがする」



「じゃあ、エディの髪の毛を一本燃やしてもいい?」



「いいけど、いい匂いではないと思うよ」



 エディは僕が何を思っているのか分かっているかのように、微笑みながら一本の髪の毛を渡してきた。

 エディの髪の毛を燃やせば、僕はいい匂いに思えたが、エディはあまり良く思っていない表情だ。



「ツガイの匂いはいい匂い?」



「そういう事だね。あとは、ルリュにだけ教えてあげるけど、今やったように一部を燃やせば、その匂いで魂がどんなものか分かるんだよ。エリュシオンの選定には役立っているけれど、鼻が曲がりそうな者の後は、ルリュの匂いで誤魔化してるよ」



「エディが鼻を擦り付けてくる時って、もしかして……」



「そう。ルリュの匂いを吸って、自分に擦り付けてる。そうでなくても、ルリュの匂いは特別だけどね」



 僕の匂いがエディの役に立ってる……嬉しい。

 エディの為なら、自分の匂いも嫌いじゃないかもしれない。

 エディが好きな匂いを好きになりたいし、エディが可愛いって言ってくれるなら、その言葉に見合う自分になりたい。

 その為にも、エディの言葉は全部受け取りたい。

 だって、エディは僕が傷つく言葉を言わないから。



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