第17話 雷ノ神(sideエディ)



 今更だが、ルリュの求愛はものすごく可愛い。

 キラキラに輝く鉱石を拾っては、俺の元に持ってくるのだ。

 それも一つずつ、笑顔で尾羽を揺らしながら持ってくるものだから、可愛くて当然だろう。

 正直、俺には同じように思えてしまうものでも、ルリュにとっては違うらしく、どこがどのように綺麗なのかを説明してくれるのだ。

 そして最後には必ず、美しい翼を広げて俺に口づけをしてくる。

 それを続けられれば、さすがの俺も我慢の限界がくる。

 愛しいツガイに、可愛らしい求愛を続けられれば、発情してしまうのは仕方ないだろう。



「――エディ、もうだめ」



「……仕方ないね。今にもベッドを燃やしてしまいそうなルリュを、また落ち込ませるわけにはいかない」



 俺は燃やしてしまっても構わないけれど……ルリュが落ち込むのはかわいそうだからね。

 それに、そろそろ雷ノ神ヌービシアとの話し合いがある。



「エディ、僕……満足してくれてる?」



「当然でしょ。ルリュは俺では満足できない?」



「ピャッ……満足!もう、今日はむり」



 それは分かってるよ。

 警戒してるルリュも可愛い。



 ルリュは布の中に隠れると、相当疲れていたのか、そのまま眠ってしまった。

 ルリュはよく眠る。

 神であっても、生き神であるからか、俺達のような神とは違って睡眠や食事を必要とする。

 俺達神も、眠れないわけでもなければ、食べれないわけでもない。

 寧ろ、好んで地上の生活をする神がほとんどだ。

 特に、信者からの神饌しんせんは信仰心の糧になるため、あるに越した事はない。



 だが、睡眠は別だ。

 眠る必要がなければ、眠らなくても問題はない。

 しかし、ルリュは定期的に眠りから覚めなくなる。

 そういった場合は、俺がそばにいる限りに眠り続け、俺がいなくなれば起きるのだ。

 安心してくれている証拠なのだろうが、あまりにも起きない場合は、ルリュから離れざるをえない。



 心配になって起こしても起きず、最近では心配のあまり離れる事もしづらいため、群れを受け入れる事は俺の為でもあった。

 庭に群れがいれば、俺はその者達の目を借りて、ルリュを見守る事ができるのだ。



 これは……今回も起きないかもしれないね。

 すぐに起こしてしまうのもかわいそうだし、今のうちに雷ノ神ヌービシアとの仕事でもしてしまおうか。



 ルリュは、抱き上げても起きる気配がないため、俺はルリュを抱えて仕事部屋へと向かった。

 部屋に入った途端、待っていたかのように雷が落ち、ビリビリと音を立てながら、紺色の髪を持つ雷ノ神ヌービシアが現れる。



「遅かったな、炎ノ神――ん?そいつは例の生き神か?」



 ルリュが生き神であるということは、既に神々全員に知られているらしい。

 俺と同じような境遇である雷ノ神ヌービシアが知っているのなら、間違いはないだろう。

 雷ノ神ヌービシアは、タルタロスの選定者であり、地上で生きた経験がない状態で神となった者だ。

 そして、なぜか俺達のような選定者に、真ノ神が直接接触してくる事はほとんどない。

 そのため、俺達が情報を得るのはいつも最後であり、水ノ神を通して俺達に伝えてくる真ノ神の様子は、面倒なうえに理解ができない。



「寝てるのか?小さくて可愛いな」



「……内容は?」



 早く済ませてほしい。

 本当に、ルリュ以外と話すのは疲れるんだよ。



「相変わらずだな。少しくらいは……と、思いたいが、俺も話すのは疲れる。いつものように、直接脳に送るぞ」



 そう言って脳に送られてきた内容は、タルタロスの住人が更に増えてしまったという事と、転生が間に合わないという事だった。

 エリュシオンの様子を見ても分かるが、暑さにより食料も水も得られない死の中で、エリュシオン逝きの者は少し増えた程度であり、ほとんどが霊庭に逝く。

 それについては問題はないが、タルタロス逝きの者も増えてしまっている事が問題だった。

 脳に送られた内容によれば、エリュシオン逝きよりも多く思える。

 雷ノ神ヌービシアが、選定を間違えているとも思えず、寧ろこれまでよりも甘いくらいだ。

 通常であればタルタロス逝きとなる者まで、霊庭に送っている事を考えれば、かなり危険な事をしているとも言える。



「ギリギリのラインで霊庭には送ってる。それでも、タルタロス逝きがなぜか減らないんだ。転生も間に合わない」



「それは、エリュシオン逝きを増やしてほしい……という事でいい?」



「ああ、そうだ。エリュシオン逝きは、タルタロスよりも慎重に選定しなきゃならないのは知ってる。それでも、もうバランスを保てない」



 確かに、地上への影響が出ている。

 ルリュを死なせたくはないけれど、これ以上エリュシオン逝きの選定を甘くした場合、エリュシオンが崩れる。



 既に選定は甘くしていたが、エリュシオンの場合は、楽園として保てなくなれば、崩れるのはあっという間だ。

 エリュシオンは善の象徴であり、徳を積む必要がある。

 しかし、徳が少ない者を受け入れれば、楽園という状況が崩壊してしまうのだ。

 世界のバランスよりも、エリュシオンのバランスを保つ方が難しいのは、全員が知っているはずだ。

 それでも、もう少し選定を甘くしろと言う事は、タルタロスも限界なのだろう。

 なにより、霊庭の住人が増えるだけでは、何も解決しないのだから、今回の選定方法は失敗だ。





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