第13話 懐かしい場所



 僕が動物と魔物を選んだのが良かったのか、エディは嬉しそうな表情を隠さず、更には「動物は多くてもいいよ」と言ってくれたのだ。



「エディは人が好きじゃないの?」



「好き嫌いはないよ。ただ、ルリュがこんなに可愛いと、どうしてもライバルが増えてしまうだろうからね」



 ライバル?僕はエディのツガイなのに。

 エディは不安なの?僕の愛が伝わらない?



「エディ、僕はエディが大好きだよ」



「俺も好きだよ。急にどうしたの?」



「エディが不安なのかと思ったんだ。だから、僕はエディが好きって伝える」



「ふふ、ありがとう。ルリュはそのままでいいよ。これは、俺の問題だから。それに、ルリュは人をここに呼ばない……そうだよね?」



 エディの言葉に逆らえるはずもなく、僕はコクコクと何度も頷いた。

 そんな僕の頭をエディは撫でてくれ、地上へ行く準備を整えると、一瞬にして久しぶりの地上へと降り立った。

 


 懐かしい……ここ、僕の巣に近い場所だ!僕の巣、どうなったのかな?



 僕はエディから離れて翼を動かすと、エディは焦った様子で僕の腕を掴み、首を横に振って何も言わず、ただ僕の意思を確かめようと待つだけだった。



「エディ、巣を見に行きたかっただけなんだ。エディも一緒に行こう」



「……ルリュの巣は、もうここではないよ。分かるでしょ?」



「分かるけど、もしも僕のことを待ってくれてる動物達がいたら、僕は連れて行きたい」



「動物の寿命は短い。ルリュなら分かるよね?もう、ここにはルリュの知る者達はいないよ」



 やっぱりそうなんだ……少し寂しい。

 みんな、僕の大切な友達だったから。

 本当なら、僕はここに戻る予定だったから。



 僕はエディの首に抱きつき、そのままズルズルと下へおりて地面に足をつく。



「ルリュ、自分の巣がどうなっていても耐えられるかい?耐えられるのなら、俺も一緒に行くよ。ただ、少しでも生き返らせようとしたら、俺はルリュを二度と庭から出さない」



「んぴゃっ!耐えられる。今の僕にはエディがいて、エディとの巣がある。だから、昔みたいに悲しんで生き返らせようとはしない。約束する」



 僕は動物達の中でも、巣を任せていた信頼できる者達を生き返らせていた。

 僕が動物達を生き返らせていた事は秘密であり、エディや神々だけが知っている事だ。

 しかし、それは地上の生き物であった僕であれば問題はなくとも、エディのツガイであり生き神となった今の僕がするのは良くないのだと、エディが教えてくれた。



「約束を破ったら駄目だよ。いいね?」



「んぴゃっ!エディの駄目は絶対。だから、約束も破らない」



 そうして、僕はエディとともに自分の巣があった場所へと向かった。

 巣の周辺は木が多く、花々も増えており、動物達の楽園になりつつあった。

 だが、そこには魔物の気配が二体あり、今のここの主はその二体の魔物なのだろう。

 それにより、少しの寂しさと安心感で、感情がバラバラになる。

 しかし、そんな僕を支えてくれるエディは、僕の肩を抱き寄せる。



「ルリュ、寂しいね」



「んぴゃ」



「でも、安心したでしょ?」



「んぴゃ……ここはもう、僕の居場所じゃない」



 僕の居場所は地上にはないんだ。

 僕の居場所はエディの庭で、エディの隣。

 エディのいる場所が、僕の居場所なんだ。



「大丈夫。ルリュを待つのは死だけではないよ。ここの魔物達をよく見てみるといい。彼らは、ルリュを待っているはずだよ」



 そこで、かつて巣があった場所に着いた僕は、足元にある亡くなった者達の形をした木の根が目に入り、涙が出そうになる。

 しかし、エディに言われた通り二体の魔物に目を向ければ、そこには僕の好きな命の音を持つ、グリフォンとヒッポグリフがいた。

 鷹とライオンが混ざったグリフォン。

 鷹と馬が混ざったヒッポグリフ。

 その姿は、僕が信頼していた動物達が混ざっているように思え、涙が溢れて止まらなくなる。



「エディ、僕の仲間がいる。家族みたいに、みんな大切で僕の群れだった。みんな……待ってくれてたの?」



「ルリュなら分かってくれると思ったよ。彼らは死後、エリュシオンへ来る予定だった。ここで死んだ者全てがルリュの群れだった……こんなに大きな群れならば、すぐにでもタルタロスとのバランスがとれるはずだった。けれど、彼らはルリュの巣を守ることを選び、多くの魂が合わさる事で二体一対の魔物となった」



 じゃあ、みんなはエリュシオンよりも僕を選んでくれたの?僕が戻らないかもしれないのに……それでも僕を待っててくれて、ここの主として守ってくれてたんだ。



 よく見ると、二体の間には僕の巣があり、その巣は何度も補修されていたのか、地面に落ちないように支えられている。

 それを見た瞬間、急激に恥ずかしくなった僕は、必死でエディの目を隠した。



「ピャッピャッ!エディ見ないで!」



「突然どうしたの?ルリュ、そんなに激しく翼を動かしたら、翼が乱れてしまうよ」



「いいの、見ないで!僕の巣、見ないで!エディの作ってくれた巣みたいに、立派じゃない」



 いらない物とかも多くて、ちょっと恥ずかしい。

 エディには、散らかってる巣は見せたくない。



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