第12話 遺跡



 エディに抱かれ続け、快楽と疲労の限界を超えてしまった僕は、ベッドを焼き尽くしてしまった。

 暴走していたエディの肩に乗る僕は、翼を広げてバサバサと動かし、炎を消そうとする。



「ピッ、ピャピャ!」



「ルリュ、大丈夫。すぐに消せるよ」



 でも、僕達の巣が焼けちゃった!僕が不死鳥の姿になっちゃったから。

 エディ、ごめんなさい。



「ピィ……ピャー……」



「落ち込んでるの?ここにいたら、焼けたベッドが目につくだろうから、一度外に出ようか」



 僕はエディの肩に乗ったまま外に出る。

 エディの肩には、僕の爪が食い込んでいる状態になるため、エディが痛くないようにニギニギと動かしてみる。

 すると、エディは僕の姿を元に戻し、僕は飛びながらエディの首に抱きついて、頬擦りをする。



「エディ、やっぱり痛かった?」

 


「少しだけね。それに、ルリュは不死鳥の姿を望んでいる分、この姿に戻る事はできないでしょ?望みに矛盾があれば、さすがに叶える事は無理だからね」



 僕が元に戻れないのは、そういう事だったんだ。

 確かに、矛盾まで叶っちゃったら、やりたい放題になっちゃうもんね。

 僕なんか、もっとエディを縛っちゃうかもしれない。



「エディ、好き」



「俺も好きだよ。ルリュは本当に可愛いね」



「んぴゃっ!でも、エディが暴走すると、僕が駄目になる」



「うっ……それは本当にごめん。ルリュがあまりにも可愛いうえに、俺の理想通りに育ってくれている事が嬉しくてね」



 エディの理想というものがよく分からなかったが、エディが満足そうにしているため、僕も嬉しくなって尾羽を揺らす。

 それから少し歩くと、エディがエリュシオンや地上へ行く為の場所である、遺跡へと来た。

 地上で言うところの遺跡だが、エリュシオンでは転生の場となっており、密林に囲まれている。

 そしてエディの庭であるここでは、エディがエリュシオンや地上といった、庭の外に出る為の場所となっているらしい。



「ルリュをここへ連れてきたのは初めてだね」



「んぴゃっ!どうしてここに来たの?」



「ルリュを外に連れ出す為だよ」



「エディと一緒?でも、ここはどうなるの?誰か見張りが必要だ」



 エディと一緒は嬉しいけど、ここを留守にするのは嫌だ。

 ジィ様の庭に行く時も、誰かにお願いしようと思ってたのに。



「大丈夫だよ。庭に何かあればすぐに分かるからね。それでも、ルリュは不安だろうから、ルリュが選んだ者の中から俺が選ぶよ。ここに連れて来る者をね」



 え、それって……



「ここが賑やかになるの?」



「賑やかになるほど欲しいの?ここに連れてくるには、条件があるから難しいと思うよ」



「違う。僕は人が好きだし、魔物も動物も好きなんだ。でも、一番好きなのは……命の音」



「命の音?それはどういう音なの?」



 エディは珍しく興味津々で僕を見つめ、その金色の瞳には期待のような熱が混じっている。



「動物や魔物の鳴き声とか、動く音、それと草木が風で揺れる音とか水の音、そういう生きてる証みたいな音が好き。人の住む場所なら、人の声は賑やかで、たまにうるさいと思う時もある。でも、みんなちゃんと生きてるんだ」



 命は好き。

 いろんな命の音が好き。

 生きてるものは凄く好き。



「一生懸命に生きてる命は、僕にとって凄く羨ましくて、凄く尊くて、凄く儚くて、凄く愛しい」



「……どうして?ルリュは不死鳥なんだよ。彼らとは違くとも、ルリュには永遠とも言える命がある」



「んぴゃ、だからなの。僕は命を燃やし続けてるんだ。僕の命は炎になっていて、燃やさないと命にならない。でも、地上のみんなは違うんだ。一瞬一瞬を一生懸命に生きてる」



「けれど、全員が一生懸命に生きてるとは限らないよ」



 それは……知ってる。

 特に人間は、自分から命を捨てる人もいるんだ。

 でも、僕は思う……そんな人達も、生きるのが辛くなるほど一生懸命に生きてて、そのせいで命を手放しちゃうんだ。

 壁があったら、乗り越えられる人もいるけど、やっぱり乗り越えられない人もいる。

 それは仕方なくて、いろんな人がいるんだ。



「エディ、人も魔物も動物も、みんな違ってるけどそれでいいんだよ。神様が世界のバランスを考えるように、命ある者もみんな考えてる。善も悪も必要なら、どんな人がいても、みんな必要でしょ?」



「そうだね。どんな者だろうと必要だよ。よく分かってるね。ただ、ルリュの視点は面白いね。命の音が好きだからかな?神の視点では、命というよりも魂で見ているから、あまり命を重要視してはいないんだよ。繰り返し転生し、魂を磨いて進化を見ているからね」



「んぴゃ、そっちの方が分からない。でも、僕は命の音が好き。でも、ここに連れて来るなら賑やかすぎない方がいいから、動物か魔物がいい」




 エディの言う事は難しいけど、エディは寂しくても賑やかはあまり好きじゃないと思う。

 それに、人は連れて来る条件が難しそう。

 エリュシオン逝きとタルタロス逝きを選定してるくらいだから、神の庭なんてすぐに連れて来るのは無理な気がする。





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