第11話 依存計画(sideエディ)



 可愛いルリュを、更に俺に依存させようと思ったのは、ルリュが水ノ神ネイストの元へ行きたいと言い出したからだ。

 水ノ神ネイストを信用していないわけではないが、俺の領域ではない他の庭へ行くという行為は、ルリュにとって危険であるのは確かだった。

 ルリュは話せば理解してくれるだろうが、水ノ神ネイストに対するルリュの反応は、ルリュが地上で裏切られた状況と似ていた。

 ルリュにとっては、気にならない事だったのだろうが、あの時にルリュの様子を見ていた俺からしてみれば、怒りを抑えられないほどの出来事だった。



 ルリュには、仲良くしていた魔物がいた。

 その魔物は力が弱く、縄張り争いに負けて命が尽きかけていた。

 しかしルリュに救われ、ルリュの炎を食べていく魔物は、密かにルリュの魔力を吸収していたのだ。

 それに気づかず、ルリュは治癒の炎を与え続け、空腹による体調不良すらも治癒しようとしていた。

 ルリュはただ、友達を助けようとしていただけなのだろう。

 だが、ある日突然、力を蓄えたその魔物は、ルリュ自身を食べようとしたのだ。

 弱者なりの生きる術として、他の魔物を騙し、ルリュを襲わせる。



『不死鳥を食べた者は、不死鳥の代わりに自分が不死身になれる。弱い自分達は、皆で不死身になろう』



 そうやって騙し、ルリュの魔力が尽きようとした頃に、魔物はルリュを助け、ルリュが眠る隙にルリュを食べようとした。

 ルリュを食べずとも、ルリュは気に入った者を生き返らせる。

 しかし、魔物はその事を知らなかったのだ。



 俺は『聖獣を助けよ』という神託を出し、その魔物を狩らせた。

 それについて、ルリュは自分の身に起きた事を気にした様子もなく、ただ助けてくれた者達に感謝を伝えるように鳴くだけだった。



 他にも、病気の人々を治癒の炎で癒して、飼い殺しにされそうになったり、自分の羽根が良い装備素材になると分かると、無理やり毟られても嬉しそうにするだけだった。

 ルリュは、誰が相手だろうと自分を必要とし、それによって喜ぶ姿を見るのが好きだったのだ。

 それを知っていれば、今回腰痛によって俺の庭に来れない水ノ神ネイストに懐き、その神を喜ばせようとするルリュの行動は、俺にとっては自己犠牲に思えてしまったのだ。



 そのため、俺はエリュシオンについて思う事を話し、ルリュに自己犠牲の危険性を自覚させる為と、俺に依存させて俺以外を必要としないようにする為に、エリュシオンについて教えていた。

 しかし、優しいルリュは俺のことを考えすぎるあまり、俺の元から逃げようとした。

 それは嬉しく思うが、同時に俺がルリュ以外で満たされると思われている事に苛立った。

 勝手だと分かっていても、ルリュを無理やり連れ戻し、ルリュの体と心に俺を教え込む選択肢しか、俺にはなかった。



「――ルリュ、俺が何を言いたかったか理解できたかい?」



「エディは僕のことが大好き」



 そうだね、それは当然だよ。

 けれど、それ以外にもあるはずだよね?



「あとは、僕もエディが大好き」



「ッ……可愛すぎる」



 少し自慢げに胸を張り、尾羽を揺らす姿は愛らしく、俺の気持ちが伝わらなくとも、それでいいのではないかと思ってしまう。



「それと、エディの庭が鳥籠みたいだった。新しい発見。僕の為の鳥籠なら嬉しい。でも、エディだけが自由に鳥籠から出れて、僕はいつもお留守番……僕も自由が欲しい。エディと一緒なら、自由が欲しい。置いていかれて、エディが僕の知らない所で何を思ってるのか理解できないのは嫌なんだ」



 これは……違う方向に行ってしまったけど、立派な依存だ。

 もしかしたら、俺が望んでいた以上の依存に化ける可能性もある。



「ルリュは俺と一緒がいいの?」



「ピャッピャッ!どうして今頃訊くの。もしかして、エディは知らなかったの?僕、何回も言ってる!」



 ルリュは俺の手を噛み、怒りながらも尾羽は揺らしている。



「てっきり、ルリュはここを離れたくないのかと思っていたよ。俺と一緒に行きたいと言うより、俺を外に出したくないといった様子だったからね」



「んぴゃ、僕はここを守りたい。ここから離れるのは、巣から離れるのと同じだから、信用できる誰かがいたら、安心してエディと一緒に行ける。外には行きたいんだ。そうじゃなかったら、ジィ様のところに行きたいなんて言わない」



「それは、俺がここにいてもルリュは外に行きたいの?」



「エディがいるなら行かなくていい。僕はエディから離れたくないだけ。ジィ様のところには行きたいし、遊びたいけど……本当は、ジィ様がエディのことをよく知ってるみたいだったから、ジィ様が昔のことを忘れる前に、僕の知らないエディのことを教えてもらいたかったんだ。代わりに、ジィ様の腰も治してあげたかった」



 そっか……ルリュは、俺のことしか考えてなかったんだね。

 水ノ神ネイストに懐いたのも、俺が許したからであって、最初からルリュが決めたわけではなかった。

 俺が決めていた……ルリュと関わる者を、俺が決めていた。

 そう思うと……あぁ、これはまずいな。

 嬉しすぎて、ルリュを壊しそうだ。



 ルリュへの想いが膨れ上がり、まずいと分かっていても止める事はできず、その後はルリュが不死鳥姿になってベッドを焼き尽くすまで、ルリュを抱き続けた。



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