第8話 生き神



 真ノ神を悪く言いながらも、そこには真ノ神に対しての恨みなどは一切含まれていない。

 砂ノ神セトゥルスも風ノ神シューウもそうだが、エディも含めて真ノ神に情のようなものを感じるのだ。

 それは僕も同じで、なぜか真ノ神に対しては、敵意を向けようとは思わない。



「――真ノ神の話になってしまったけど、話を戻そうか。エリュシオンとタルタロスのバランスが大切だという事は理解できたかい?」



「んぴゃ、エリュシオンもタルタロスも地上も、お互いに大切で共存してるって事だよね?」



「そうそう。そして今回、選定があるということは、崩壊の危機であるとも言えるんだよ。地上からしてみれば、選定は時代が変わる瞬間、死と再生でもある。今あるものを無にし、新たに再生する。進化の予兆であるとも言えるかな」



 死と再生……進化?それって……



「僕みたいだね」



 思った事を呟くと、エディは眉を寄せて固まり、風ノ神シューウは何かを考えるように、顎に手を当てる。



「エディ?僕、悪いこと言った?謝るから許して。ごめんなさい」



 不安になってすぐに謝れば、エディは慌てた様子で僕の頭を撫でて謝ってくる。

 エディは、僕の言っていることが間違っているとは思えず、それどころか僕が生き神に選ばれた原因がそこにあるのではないかと思ったようだ。



「メトラー、あなたは生き神の役割を聞いてますか?」



 それに対し、エディが首を横に振るため、僕もエディの真似をして首を横に振る。

 すると、風ノ神シューウは微笑み、真ノ神と関わる事が多いという事で、他の神が知らない情報を教えてくれた。



「生き神の役割は、この世界の象徴となる事。もしくは核ですね。世界の心臓は生き神に移し、永遠に崩れる事のない世界を構築する事が、真ノ神の目的だそうです。そして、その生き神を守るのは真ノ神の役目であり、代理神は世界を保つ事が役目。これは、世界という生き物であると考えれば、分かりやすいと思います」



 ん?僕は分からないよ。

 もっと分かりやすく説明してほしい。



「そういう事……この世界は、ある種の生物と言ってもいいのかな」



 そういう事ってどういう事?エディ、どうして分かったの?



「この世界を保てずに崩壊しそうになった場合、世界の代わりに炎ノツガイが命を燃やして死を迎え、灰から新たに再生すると同時に世界も再生します。そのため、真ノ神は世界の危機を知らせ、炎ノツガイが灰になれずに死を迎える事がないように守り、代理神は世界を整えてあげなければなりません。生き神の命によっては、私達が消えて世界が消える可能性もあり得ます」



「ピャッピャッ!エディ、いなくなる?嫌だ。エディがいなくなるのは嫌だ。エディ、いなくならないで。お願い。お利口さんにするから」



 僕は必死にエディにしがみつき、ポロポロと溢れる涙をそのままに、エディの服に噛みつく。



 痛くしないから、いなくならないで。

 仕事の邪魔もしないから、いなくならないで。

 我儘も言わないから、いなくならないで。



 そういった気持ちを込めて、エディの名前を何度も呼ぶ。

 すると、エディの優しい手が僕の頬に触れ、涙を拭ってくれる。



「大丈夫だよ、ルリュ。ルリュはそのままでいいんだよ。だから、噛むのを我慢しなくてもいいし、無理にお利口さんでいなくてもいい。俺はどんなルリュでも愛してるからね。それに、どうしようもない時は、ルリュが生き神として望んでくれたらいいんだよ。神の望みは叶うものだからね」



「そうです。神である以上、望みは叶うようにできています。それは、炎ノツガイがメトラーのツガイとなったように。神が崩壊を望まなければ、問題はありません」



 本当に?僕はエディとずっと一緒にいられる?



「エディ、大好き。僕、生き神としてエディとずっと一緒にいれる事を望む!」



 その瞬間、僕の魔力がごっそりと抜けていく感覚に襲われ、炎を使ったわけでもないのに、魔力を世界に吸収されたように思えた。



 それから数日後には水ノ神ネイストとの仕事で、話し合いがあった。

 水色の髪を持つ水ノ神ネイストは、優しげなお年寄り口調であるが、見た目は誰よりも若く見える。

 水ノ神ネイストは僕を可愛がってくれ、エディもあまり嫉妬していない事から、僕は水ノ神ネイストをジィ様と呼ぶ事にした。

 すると、ジィ様も僕のことを"炎ノツガイ"ではなく、なぜか"ルリュ坊"と呼ぶようになった。



「ルリュ坊、この水に触れてはならんぞ。興奮のあまり、抱きつこうとしておるようじゃが、残念ながら儂はその場におらん」



「ジィ様、僕が水嫌いなの知ってるの?でも、大丈夫。僕、毎日エディと水の特訓をしてるんだ。そうだよね、エディ」



「そうだね。それに、七色の炎を持つルリュは、属性の影響を受けない。昔のように、水に触れて炎が消えてしまう心配はないからね。ただ、今は苦手なだけだよね」



「んぴゃっ!苦手なの。もう嫌いじゃない。ジィ様、エディが許してくれるのジィ様だけ。ジィ様とも遊びたい」



 遊び相手はエディがいれば十分だと思っていたが、元々人や動物や魔物が好きだった僕は、いろいろな話を聞きたいと思い、エディが許してくれたジィ様に甘えてみた。

 しかし、ジィ様は見た目によらず腰痛が酷いらしく、自分の庭から動けないのだと言う。

 その代わり、ジィ様の庭に遊びに行く事は可能なようだが、ジィ様の庭は水中にあり、あらゆる海の生物が住んでいるらしい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る