第7話 風ノ神
砂ノ神セトゥルスとの仕事が終わり、その場には僕とエディだけとなる。
いまだに、砂ノ神セトゥルスがこの場にいた仕組みが分からなかった僕は、エディに訊いてみた。
すると、あれは神々が扱う幻影というもので、エディなら炎の煙を幻影として使う事ができ、先程の砂ノ神セトゥルスならば、砂の粒子を幻影として使えるらしい。
あの幻影は、神託を出す時にも便利なのだと、ついでのように話すエディだが、エディが神託を出したのは神となった時と、僕についてのみだと言う。
「ルリュは生き神だからね。どう使うのかは分からないけど、そのうちできるようになると思うよ。炎なら、俺と同じかな?」
「エディと同じがいい!そしたら、僕もいつでもエディを監視できる。エディはすぐに僕に意地悪しようとして、離れて行っちゃうでしょ?でも、監視できるなら嬉しい」
「……これも俺の影響かな。ルリュ、その発言がどういうものか分かってる?」
どういうものって?僕、悪いこと言った?エディの感情が分からない。
怒ってる?悲しんでる?それとも、喜んでくれてる?
僕が首を傾げながら、両手で顔を隠しているエディを覗き込めば、なんとエディは恥ずかしそうに顔を赤くしていたのだ。
「見ないで、ルリュ……今の俺、どういう感情か、自分でも理解できてない――」
「やだ!エディが僕を可愛いって言うように、僕もエディが可愛いと思う。エディ、恥ずかしいの?」
「恥ずかしい……とは、少し違うかもしれないね。ルリュを構築するものに、俺が関われたのなら嬉しいと思うし、ルリュが俺のことしか考えていない事が幸せで……興奮する」
その瞬間、僕はエディに押し倒され、深く口づけをされる。
だが、僕はふかふかの巣であるベッドに行きたかったため、ほんの少し抵抗しながら、エディにベッドへと連れて行ってもらう。
それからはエディに愛される僕は、またしても快楽と疲労がいっきに襲いかかり、エディには僕が回復するまでの間、仕事をしないようお願いした。
それからまた数日後、僕はエディの仕事について行き、次は風ノ神シューウとの話し合いだった。
風ノ神シューウは、青緑の髪と金色の瞳を持つ。
これにより、なぜ全員が金色の瞳を持っているのかとエディに訊けば、金色の瞳は代理神の象徴だと言う。
そのため、他の神々も金色の瞳を持っているのだそうだ。
「――というわけで、よろしくお願いします。今年の暑さは早くなりますが、選定は仕方がありません。選定に時間がかかる場合は、また秋の時期と冬の時期にお願いします」
「分かった」
風ノ神シューウは、季節を呼ぶ風によって、こうして気温の調節を頼んでいるようだ。
炎ノ神であるエディの他に、水ノ神にも頼むようだが、基本的には気温の微調整ができる炎でバランスを取りながら、風を使って季節を変えるらしい。
それにしても、選定ってなんだろう。
雨も減らすって言ってたけど……それだと、みんな死んじゃうよ。
僕は雨が好きじゃないし、水は必要じゃなかったけど、他のみんなは違うよね?
「エディ、みんな死んじゃうの?」
「みんなではないよ。ただ、犠牲は出てしまうかな。選定は、エリュシオンへ逝く者達の選定と、増えすぎてしまった種族を減らし、バランスを整えようという選定があるんだよ」
「どうしてそんな事をするの?みんな生きてるのに」
「ここ数年、エリュシオン逝きの者がいなくてね。代わりに、タルタロスという奈落逝きが増えた。そして、増えすぎた種族は群れが増え、群れが増えれば縄張りが増え、縄張りが増えれば争いが増える。争いが起きたところで、俺達が手出しする事はないけれど、争いからの死は殆どがタルタロス逝きなんだよ」
だからエリュシオン逝きを増やしたいの?でも、争いの中でもエリュシオン逝きの人は増えるでしょ?
「炎ノツガイは、どうやら世界について分かっていないようですね。この世界の仕組みを、もう少し教えてあげた方がいいのでは?エリュシオンとタルタロス、この二つの関係について、生き神となった炎ノツガイには、知る権利があると思います」
「……そうだね。ルリュ、エリュシオンとタルタロスは、地上の維持に必要な存在なんだよ。エリュシオンは善、タルタロスは悪、それらに住む死者は転生するまでの間、地上の糧になっている」
地上の糧とは、善悪をバランス良く地上に与える為であり、どちらかがバランスを崩せば、地上が崩壊に向かってしまうらしい。
地上が崩壊すれば、神々への信仰は消え、代理神がいなくなれば、エリュシオンとタルタロスも保てなくなり、魂が全て消滅してしまうのだと言う。
エリュシオンとタルタロス、そして地上との関係は切っても切り離す事はできず、生命の維持というのは真ノ神の全てを使う事で、成り立っている。
そのため、真ノ神には代理神のような力はなく、ただ存在して口を出すだけの厄介な神でありながら、この世界全ての生みの親であると、エディはため息混じりに説明してくれた。
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