第6話 砂ノ神



 エディに意地悪をされた僕は、現在エディの膝の上に座り、エディの首に抱きついて拗ねていた。

 というのも、エディは屋敷内にある仕事場で、知らない神様と親しげに喋っているからだ。

 それも、相手の神はエディの話し方が気持ち悪いなどと、酷い言葉をエディに言うのだ。



「――それにしても、そこにいるツガイは見せてくれないのか?」



「……見せている」



「ふん、漸く戻ってきたな。今までは殆ど喋らず、何に対しても無関心だったお前が、ツガイを欲しがるとは思わなかったがな」



 エディはとうとう黙ってしまい、僕を力強く抱きしめてくる。

 そして、僕にだけ聞こえるように、「嫌わないで」と呟いた。

 それを聞いた瞬間、僕は怒りとともに翼と尾羽に七色の炎を纏い、エディが話していた相手である、砂色の髪に金の瞳を持つ男性に向かって、炎を放った。

 しかし、相手が焼かれる事はなく、すり抜けるように屋敷が燃えてしまう。



「ピャッピャッ!エディ、屋敷燃えちゃう!」



「大丈夫だよ、落ち着いて。炎なら俺がどうにでもできるから」



 そう言ったエディは、すぐに炎を消してくれ、僕の頭を撫でてくる。



「ありがとう、ルリュ。怒ってくれたんだね」



「んぴゃっ!あいつ、僕のエディを悲しませたんだ。それに、エディは気持ち悪くなんてないし、エディと話していいのは……僕だけ。エディ、それじゃ駄目なの?」



 僕は再びエディに抱きつき、炎によって疲労も声も癒してしまった僕は、翼を動かしてエディを連れて行こうとした。



「ふ……ふはは!お前のツガイは可愛らしいな。元魔物という事もあって、無知で愛らしい」



「無知だって?……ルリュを、無知呼ばわりするのはやめてほしいな」



「ならば、ルリュと呼ぶか?」



「不死鳥、もしくは炎ノツガイ。それ以外は認めない」



 エディは一向に動く気配がなく、疲れた僕はエディに抱えてもらい、エディに擦り寄る。

 エディが睨みつける相手は、何が楽しいのか分からないが、ケラケラと笑って感情が豊かなようだ。



「分かった。炎ノツガイと呼ばせてもらう。お前がそんなにも大切にしているのなら、俺達も炎ノツガイを大切にしよう。砂ノ神セトゥルスの信者には、神託でも出そう」



「……そう」



 エディは「ありがとう」と、僕にだけ聞こえるように言う。

 無表情でありながらも、僕は可愛いと思ってしまい、こんなエディを知っているのは僕だけでいいと思った。



 その後もエディの仕事は続いたが、エディは殆ど喋らなくなった。

 代わりに、僕にだけ聞こえるようにボソボソと喋り、砂ノ神セトゥルスに対しての愚痴を言ったり、僕を愛でたりしてくれる。

 それが嬉しい僕にとって、僕しか知らないエディがいるというのは心地良く、砂ノ神セトゥルスへの怒りも嫉妬も無くなっていた。



「――そうそう、炎ノツガイのことだがな。お前はとんでもない者を、ツガイにしてしまったようだぞ」



「とんでもない?……ルリュはルリュだ」



「炎ノツガイは、生き神に選ばれてしまった。炎ノ神メトラー、お前とツガイになったことで、生き神となったようだ。元々、聖獣として信仰され、更に不死鳥というほぼ不死であると言ってもいい存在は神だろう?それに加え、不死鳥とは地上での肉体を持っている。我々と違い、地上でも生きていける。そんな存在は生き神に値する……と、決められてしまった」



「……また、奴らが決めたのか」



 エディは悲しげな表情で僕を見つめ、力強く僕を抱きしめる。

 不安か寂しさかは分からないが、僕がすべきはエディを苦しめる全てを取り除く事だ。

 そう思って、エディの言う"奴ら"について訊いてみた。

 するとその"奴ら"は、地上の信仰心を受け取るエディ達のような神々よりも上の存在であり、天地創造てんちそうぞう真ノ神まことのかみと呼ばれている、神にとっての神とも言える二柱の神のことを表しているようだ。

 しかし、神々はその二柱を信仰しているわけではないらしく、ただただ厄介な神であると思っているらしい。



「真ノ神は、俺達のような神を代理神と呼んでいてね。地上を任せているんだよ。けれど、奴らが神として干渉するものがある。それが、エリュシオンとタルタロス、それから代理神だよ」



「そして、その干渉に炎ノツガイ、キミも加わってしまったという事だ」



 そうは言っても……干渉してくるって言うわりに、二人とも言いたい放題だよね。

 真ノ神が怒ったりはしないのかな?それに、僕は生き神って言われても、いまいち分からない。



「エディは、僕が生き神になって、真ノ神に干渉されたら困る?」



「困るよ。すごく困る。奴らがルリュを生き神としたのなら、きっと面倒な事を言い出す。なぜか分からないけれど、奴らはずっと生き神を欲してきたからね」



 生き神を欲する理由は、僕にも分からずに首を傾げ、とりあえずエディの首に抱きついた。

 僕はエディから離れないという意思表示で、更に首にも噛みついてみたが、思っていた以上に力が入りすぎてしまったのか、エディは「イタッ」と一瞬だけ肩を震わせ、珍しく少しだけ痛がっていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る