第4話 求愛



 目が覚めると、僕はひとりで花畑にいた。

 美しい花々に目を奪われるも、エディがいない事に気づき、徐々に不安が押し寄せる。

 エディの庭であっても、そばにエディの気配がないだけで落ち着かない。

 それほど、この庭は美しくとも寂しい場所であり、寂しさは徐々に恐怖へと変わっていくのだ。



「エディ、エディ!どこ」



 呼んでも来てくれない。

 どこに行ったの?僕を置いて、どこで何をしてるの。

 怖い、寂しい……エディ、早く迎えに来て。



 僕はエディを捜し回るが、転んでばかりで上手く進めず、翼を動かしても飛ぶ事はできない。

 飛んでしまえば、すぐにでもエディの元へ行けるのだろうと考えながらも、人の体は重く、その現実は変わらない。



 飛べないだけで、僕は何もできない。

 エディがいないと何もできない。

 エディのツガイは嬉しいのに、自由に飛べないこの姿は嫌になる。

 でも、エディだって人の姿なんだ。

 僕だって、この姿でエディのそばにいたい。



「エディ……早く、むかえきて。さみしいよ」



 涙を流して俯いた瞬間、頭上から優しげな声が聞こえてきた。



「ルリュ、ごめんね。これをあげるから泣かないで」



 そうして視界に入ってきたのは、僕の好きなキラキラだった。

 キラキラは、僕がオアシスにいた頃に集めていた宝石で、エディからは僅かに砂の匂いがした。



「これを取ってきたんだよ。ルリュが集めていたでしょ?」



「これ……僕の。エディ、行ったの?」



「ルリュの宝石で間違いないはずだよ。ルリュが大切にしていたのは、知っていたからね」



 そう言って微笑むエディに、僕は抱きついて、首を噛んだ。

 今回は、喜びと怒りを混ぜて噛みついたため、エディは痛そうに声を漏らすが、どこか嬉しそうに僕の頭を撫でてくれる。



「エディ、置いていかにゃいで」



「寂しかった?」



「んぴゃ。さみしい、こわい……エディ、いにゃいのは嫌」



 僕は、前世で大切にしていた宝石よりもエディを選び、エディに向かって手を広げた。

 宝石よりも、僕を抱えてほしかったのだ。



「ルリュ、愛してるよ。もう、寂しい思いはさせないから許してほしい」



「んぴゃっ!やくそく。僕も、エディが好き」



 その後、エディは僕に口づけをすると、住処まで運んでくれた。

 大切に扱われるのは心地良く、エディは僕が集めていた宝石も袋に入れ、僕の巣に隠してくれる。

 そんなエディに、僕は宝石を一つあげた。

 エディの瞳の色と同じ、金色の宝石だ。



「エディ、キラキラあげる!」



「ッ……いいの?」



「んぴゃっ!ほんとは、僕が取ってきたの、あげたい」



 でも、まだ取りには行けないから、これで求愛するんだ。



「ありがとう、ルリュ。可愛い求愛なら、受け取らないといけないね。ルリュが何を取ってきてくれるのか、今から楽しみだよ。その頃には、ルリュとツガイになれるかな」



 それって、僕を抱いてくれるってこと?本当に、抱いてくれるんだ。

 僕をツガイにするのが、嫌なわけじゃないんだよね?先延ばしにしてるわけじゃないんだよね?



「エディ、ツガイにして」



「こら、まだ駄目だよ。ルリュが辛いのも気づけずに、拒まないルリュを無理やり抱きたくはないからね」



 僕は宝石を更に渡し、エディの首に噛みついた。

 しかし、優しいエディは僕に選択肢を与えてくれる。

 僕は選択肢があっても、エディから離れるつもりはないため、エディに訴えるように何度も噛むが、エディは僕を愛でるように撫でるだけで、今すぐにツガイにしようとはしなかった。



 それから毎日、僕はエディに宝石をあげて求愛を続けた。

 エディとの特訓もあり、ゆっくりではあるが言葉も"うん"以外は上手く話せるようになった。

 エディと手を繋いでいれば、ある程度歩けるようにもなっている。

 僕が転生してから、おそらく一年程経っているだろうが、僅か一年でこれだけできるようになったのは、エディの協力があってこそだろう。



 そして何より、一番の成長は僕の魂だ。

 僕はエディのツガイとして転生したが、いまだに完全なツガイにはなっていない。

 しかし、エディの庭に馴染んできたようで、漸く魂を守る体が軽くなり、魂が強くなったことで、鳥の証である翼も大きくなったのだ。

 それにより、少しであれば飛べるようになり、エディの首に抱きついて、休みながら飛ぶ事も可能になった。



「エディ、エディ、好き好き」



「ふふ、俺も愛してるよ。この姿で飛ぶのも上手になったね。自由に飛ばなくていいのかい?」



「んぴゃっ!エディがどこにも行かないように、エディにくっついてるんだ」



 エディの背後から首に抱きつき、飛んで移動するものの、僕はエディから離れてはならない。

 エディはすぐにどこかへ行って、僕を驚かせて喜ばせようとするため、僕は見張ってる必要があるのだ。

 僕がエディを喜ばせ、驚かせたいと思っていても、僕の求愛を真似て贈り物をしてくるエディには、負けたくなかった。



「ルリュは本当に可愛いね。愛してくれてありがとう」



「んぴゃあ!エディ、早くツガイにしてほしい。僕、エディが大好き」



「そうだね……ルリュも動けるようになったし、そろそろいいかな。ルリュ、俺のツガイになって、永遠に俺だけを見てくれる?」



「んぴゃっ!」



 当然だ!僕はエディのツガイだもん。

 その代わり、エディも僕だけを見てくれないと嫌だよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る