第2話 練習



 転生してから月日が流れ、僕は少しずつ喋れるようになっていた。

 そのため、いろいろな事をエディに訊いた。



 まず、ここはエリュシオンではなく、その更に天にある神の庭であるらしい。

 ここはエディと僕の二人だけで、エディの庭であるようだ。



 エディは僕を炎の聖獣とし、地上で育ててから僕をツガイとして迎える準備をしていたらしく、転生後の僕は、エディのツガイとして生まれたのだと言う。

 元々は魔物であった僕が、聖獣として人々に歓迎されていたのは、エディが僕の炎を気に入ったからだった。

 不死鳥である僕は、体内で命の炎を燃やし続ける。

 そうしなければ、僕は自分の炎で魂を焼き尽くしてしまうからだ。

 しかし、命を燃やし続ければ魂までは燃えず、再生するのが不死鳥だ。



 これは、本能から僕が生きる為にしてきた事で、誰かから教えてもらったわけでもなかったが、どうやら不死鳥という魔物は僕だけだったようだ。

 不死鳥というのも、人々がつけた種族名で、ルリュという名も人々につけられたのだと思って生きてきたが、エディが名付けてくれたものだったというのだから驚きだ。



 こうして、僕は分からない事をエディに訊けるようになった事で教えてもらい、今は体の動かし方も練習中だ。

 特に、歩くという行為はなかなかに難しく、体の重さにもいまだに慣れずにいる。



「ルリュ、ここまでおいで」



「んぴゃっ……エディ、まって」



「大丈夫、ここから動かないからゆっくりおいで」



 転んでしまう僕を、しゃがんで待っててくれるエディは、僕に向かって手を広げてくれている。

 僕の体は、これ以上育つ事はないらしいが、人の姿を与えたのはエディがツガイに望んだからだ。

 だが、人々を見てきた僕もまた、人に憧れていたため、この姿を得る事ができたのは嬉しく、こうして毎日練習している。



「エディ、動かにゃいでね」



「動かないよ。ルリュがここまで来れたら、ルリュの傷を見てあげる」



 エディの元まで、翼を羽ばたかせながら慎重に歩き、十歩目でエディの胸に吸い込まれるように倒れる。



 できた!今日は十歩も歩けた!



「ルリュ、凄いよ!今日は記録更新だ」



「んぴゃっ!エディ、僕すごい!エディもすごい!」



「ルリュは本当に可愛すぎる。どれ……傷を見よう。痛い所はない?」



 大丈夫、擦りむいただけだよ。

 僕の傷はすぐに癒えるから、エディの炎を使わなくても大丈夫だよ。



 喋りたい事があっても、上手く喋れない僕は、「らいじょぶ」とだけ言って、足の傷を自分の炎で治す。

 不死鳥の力である癒しの炎は、緑の炎となるが、エディは金色の炎で僕の足を包む。



「ルリュ、俺が治したいんだよ。だから俺に任せて」



「エディ、優しい。でも、らいじょぶ」



「駄目だよ。ルリュ、良い子だから俺に任せて」



 エディの優しさに、僕はいつも負けてしまい、緑の炎を消す。

 すると、金色の炎はじんわり染み渡るように、傷口から僕の体を巡り、エディに全身を撫でられるような感覚になるのだ。



「ん……ぴゃ」



「ルリュ、気持ちいい?」



「きもちいい。エディの炎……すき」



 温かくて、優しい炎。

 僕が使えない炎だけど、こうして炎に包まれると、僕まで使えるような気がしてくるんだ。



「ついでに、ルリュの羽づくろいもしようか」



「んぴゃっ!してほしい」



「……前から思ってたけど、ルリュの返事は愛いね。うん、って発音しづらい?」



 分からないけど、急いで口を開けると音が変わる。

 だから、たぶん難しいってこと。



 僕が頷けば、エディは微笑んで頭を撫でてくる。

 そして、僕がエディに背を向ければ、エディは僕の羽づくろいをしてくれる。

 エディの羽づくろいは丁寧で心地良いが、同時に発情もしてしまいそうになる。

 エディに触れられ、口づけをされれば、いつも発情してしまうものの、エディは僕を抱こうとはしない。

 それは、僕が自分の体をいまだに上手く動かせないからだ。

 エディは、僕が嫌な時にしっかり拒めるようにと、待ってくれている。

 しかし、それがたまにもどかしい時があるため、少しでも早く自分の意思で体を扱えるようにと、頑張っているのだ。



「エディ、気持ちいい。耳もして」



「ふふ、ルリュは甘え上手だね。そんなにスリスリしたら、髪の毛が乱れてしまうよ」



 そう言いながらも、エディは僕の髪を整えてくれ、耳の羽づくろいもしてくれる。

 そして僕が目を閉じ、口を開けて心地良さに浸っていると、口づけをされて求愛してくる。



「んっ、エディ……んふ」



「ルリュ、もっと口開けて」



 目を開ければ、ギラギラと輝くエディの瞳と目が合う。

 口を開ければ、エディの舌が僕の舌に絡み、呼吸が乱れて力も入らなくなってくる。

 エディの求愛は激しく、それでいて優しい手に、僕は身を委ねる以外の選択肢がないのだ。



「可愛い……けれど、嫌なら拒まないといけないよ」



「嫌じゃにゃい」



「ふふ、そうか。嫌でないなら、ルリュは口づけが好き?」



「んぴゃっ!好き好き、エディ……もっと」



 だから、早くして。

 僕の発情を止めて。



 僕がエディにしがみつけば、エディは微笑んで再び口づけをしてきた。



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