不死鳥ルリュは転生したら神のツガイ

翠雲花

第1話 不死鳥ルリュ



 不死鳥は寿命を迎えると、炎を身に纏って焼き尽くし、灰から再び蘇る。

 それを転生と呼んでいた。

 そして今回、僕は初めて転生する。



 炎は怖くない。

 でも、死は少し怖い。

 だって、この身が灰になるなんて考えられない。



 僕はオアシスを出て、砂漠の中心でこの身を焼く。

 聖獣として、狩られる事もなく人々と共存してきた僕は、灰を誰かに奪われないよう、オアシスから離れたのだ。

 炎の中で、意識が遠くなっていく僕は、眠るように死を迎えた。

 そして再び、目覚めるように灰から生まれると、僕の体は鳥の姿ではなく、人のような姿となっていた。



 この体は……それに、ここはどこ?僕の好きな砂漠じゃない。

 でも、オアシスに似てる。



 エメラルドの水場があり、自然が豊かでありながら、動物の声が聞こえてこない場所。

 そこは静かで、少し寂しく感じた僕は、人の体を初めて動かしてみるが、歩けそうにはなかったため、背中の翼を動かしてみる。

 だが、翼もまだ成長していないのか、重い体を浮かせる事ができず、這って水場へと向かった。



 水面を覗いて自分の姿を確認してみれば、幼い人の顔が映り、短めの眉は幼さを際立たせているようだが、瑠璃色の瞳は変わっていない。

 しかし、毛色は真紅ではなく鳥の子色になっており、人の耳がある場所には小さな白い翼があった。



 僕の体、オアシスの人達と違う。

 それに、背中の翼と尾羽もある。

 でも……色が変わってる。



 白い翼と七色の尾羽は、不思議ではあるものの、嫌いな色ではなかった。

 特に尾羽の色は気に入り、体を捻らせて尾羽をよく見ようとした。

 だが、思うように動かない体は傾いていき、僕は水の中に落ちそうになる。

 しかし、体はいつまで経っても濡れる事がなく、お腹の圧迫感とともに体が浮く。



「ルリュ、こんな所にいたんだね。心配したよ」



 急に人の声が間近で聞こえ、驚いて振り向けば、金色の瞳と目が合った。

 まるで、僕の元々の尾羽を奪ったような瞳の色に、真紅の長髪は一つに纏められている。



 誰?こんな人、オアシスにいなかった。

 でも、僕の名前を知ってるなら、どこかで会った事があるのかな。



「人の体はまだ慣れないでしょ?ルリュが住みやすいように、木の上に住処を作ったけれど……下に住処を作った方が良かったかな」



 僕は何も喋ってないのに、この人はひとりで喋ってる。

 不思議な人なのかな。

 そもそも人なのかな?雰囲気が少し怖い。

 魔力も感じられないのに、生きてる……んだよね?



 僕は不思議な人に抱えられて、大木の上にある人が住むような住処に連れて行かれた。

 僕の体は鳥の頃を引き継いでいるためか、もしくは生まれたばかりであるためか分からないが、不死鳥である僕は既に立派な大人であるにも関わらず、不思議な人とは体格差があり、軽々と運ばれてしまう。

 僕にとって、飛べないほど重い体を軽々と持ち上げる彼は、きっと凄い力を持った人なのだろう。

 そんな風に考えていると、彼は僕を膝の上に座らせ、僕と目を合わせてくる。



「ルリュ、不思議そうだね。俺はキミの知る神なのだけど、覚えてないかい?」



 神様……もしかして、火ノ神メトラー?僕の知る神はこの神様だけだ。



「その表情は覚えてるようだね。ルリュ、俺のことはエディと呼んで。メトラーは神としての名で、本来はエディ・エリュシオンという名だったからね」



 エリュシオンって、天の楽園のことだ。

 オアシスの人達が、神の話をする時に出てきた。

 じゃあ、ここはエリュシオン?僕は楽園に来たの?でも……それにしては寂しい場所だ。



 エリュシオンという天の楽園は、生前に徳を積んだ者達が住む場所であり、人も魔物も動物も関係なく、苦しみなく暮らせる場所とされている。

 しかし、この場所は話に聞いていたエリュシオンとは違い、自然は豊かであるものの、静かで寂しい場所だ。



「それにしても、ルリュはまだ話せないのかい?俺はルリュの声が聞きたい」



 そう言われて、僕は初めて口を動かし、声を出してみようとするが、喋り方が分からずに混乱する。



「あ……あぅ、ん?ぴゃ?」



「ふふ、可愛いね」



 笑った?エディ……エディの笑った顔は、なんて穏やかなんだろう。

 オアシスの人達も、笑った顔は幸せそうだったけど、エディの笑顔は凄く穏やか。

 これが本当の幸せ?楽しいというより、たぶんこれが幸せの顔。



「そうか、ルリュは喋り方が分からなかったんだね。俺が教えてあげる。俺の真似をしてごらん。そうだな……まずはエディと呼べるようになろう」



「あぇい?うぇい……えい」



「そうそう、ゆっくりでいい。少しずつ、少しずつ……俺達には永遠とも言える時間があるからね」



 僕はエディの言葉に頷き、再びエディの真似をする。

 エディの口を覗き、口の中に手を入れ、音を記憶する。

 そうしていくうちに、少しずつ理解していくが、なかなか上手くいかずにいると、エディは僕の口に口を付けて舌を入れてくる。

 これは、人の求愛行動であり、口づけというものであると知っていた僕は、エディの求愛行動に戸惑いながらも舌の動かし方を学んだ。





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