第3話 うまい話
◆かたき討ち
まずまずの成果だった。
粕原さんは気分よく、デパート内を歩き回る。店内の音楽はピンクパンサーに切り替わっていた。
友達に会って、話し込んだ。
布団のことが話題になった。
「契約させられたもんがおってな。ベッド付きで一〇〇万超えるんやって」
さすがの事情通だった。
「しつこいんよ。『ウチはカネ、ないで』って言うたら、郵便局まで付いてきて『預金残高を教えろ』って。やっぱり、タダより高いものはないなあ」
友人もひどい目に遭っていたのだ。粕原さんはまさか、あの連中から三万円巻き上げた、とは言えなかった。
◆還付金
「さあ、これから郵便局に行って、税金の還付金受け取るんや」
友達は立ちあがった。
聞き捨てならない話だった。
(なんで、ウチには還付金がないんや。ウチやって税金いっぱい取られとるのに)
役所のミスに違いない。ここはひとつ、友人に還付金がもどる様子を確認しておいて、後から市役所にねじ込んでやろう、と考えた。
「ウチも郵便局に用事あるから、一緒に行くわ」
友人に同行した。
◆お手柄
友人はキャッシュコーナーで携帯電話を出した。何やら指示を聴いている。キャッシュカードを差し込み、タッチパネルの操作を始めた。
(よう見とかんと、ウチはあんなに上手には操作できんわ)
粕原さんは画面に顔を近づけた。
(ほんまに役所の手続きはややこしいなあ)
粕原さんはうんざりしてきた。
友人は少し焦っていた。それでも操作は終わりに近づいたらしい。友人は大きく息をついて、パネルに手を触れようとした。
「ちょっと待ってや! 送金になっとるんと違う!」
郵便局員に粕原さんの声が聞こえたのか、すっ飛んできた。間一髪だった。
応接室に通された。
友人は局員から、うまい話には乗らないよう、しつこく注意を受けていた。
「いやあ、あなた、お手柄ですよ。よく気づかれましたね」
粕原さんには声の調子をガラリと変えた。
「大事な友達でしょ。還付金なんてあり得ない話だから、わたくし、付いて参ったのですよ」
粕原さんは軽く咳払いした。
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