Day27 鉱物
かたわらを魚が泳いでいた。水の中を泳ぐようにとはいかないけれど、鰭を動かし鱗に世界の血潮を滑らせて、南と北の匂いを滲ませて去っていく。
その側では木が天を支えている。支えているつもりで背伸びしたのっぽで枝の少ない木。乾いた頃と雨に濡れる頃の二つの匂いを交互に重ねて織り込んで、時々にやって来ては幹にぶつかる牙や角や爪の後を誇らしげに見せた。
鼻息の荒い奴がやってくる。最強の牙と爪を持った大きな恐竜は誰にも負けられないといつでも足に力を漲らせている。負けたら死ぬから、いつまでも勝たなければならない。そのためには体を大きくし、牙と爪を鋭くして常に賢く、よく考えて生きるようにと偉そうに言った。
誰もが記憶である。かつてあった時間、今もそこにあるけれど少し形の変わった時間だ。
温かな海が表面をさらって、何万年ぶりかの初めての太陽に輪郭が白く縁取られる。共にあった時間は先へ行ってしまった。後はただ、これからの時間が表面を滑り落ちていくのを待つのみである。
「……あ」
知らない世界に触れる。魚や木や恐竜とは異なる時間が、表面を滑り落ちて行こうとしていくのを待てと言う。その一瞬が輝く。
鉱物と目が合うのは、そういう時だ。
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