Day25 カラカラ

 カラカラとペットボトルが転がって足にぶつかる。それを拾って開いたギターケースの中に入れた。ポイ捨てされた「観客」はこれで二本目。風向きのせいなのか、ここには空のペットボトルが集まる。だからこの場所はいつも空いているのかも。ここは平穏、変な客もいない。そもそも客がいない。

 歌は上手いと思っていた。友達や家族に褒められてその気になって、まずはと路上ライブで経験を積むことにした。そして知る。私の歌は上手いだけなのだ。道行く人の足を止める力がない。店じまいをして他の人の演奏を聞くと全く違う。

 足を止める力のある歌は輝いている。カラカラに乾いた心に水を注ぐようで、だから足を止めたくなる。

 意味ないかなあと、今日も店じまいをし始めたところで、またペットボトルがやってくる。人は来ないのにゴミは来る。情けなくて涙が出そうになった。いやそもそも、こんなゴミが寄り付くような人の歌など聞きたいと思うだろうか。

 悪いのは歌じゃない、ゴミだ、と思うと怒りが沸いてきた。自分の才能のなさをペットボトルになすりつけると、気が楽になった。怒りは活力だ。店じまいしかけたギターを持ち上げて歌った。とにかく、まずは、ペットボトルを捨てるな。そしたらお客さんも増えるかもしれないし。多分。

「歌は力なんです」

 それっぽいことを言った時の記事を読んで萎えた。この時はかっこいいことを言ってやろうと思ったのかもしれないが読み返すと恥ずかしい。なら言わなきゃいいのにとはマネージャーの言だが、確かに力ではあった。

 あの時の歌でゴミは減り、動画が拡散され、そして今がある。

 出番です、と声がかかる。立ち上がりかけて机にぶつかり、カラカラと転がるペットボトルを拾った。

 最初からのファンは大事にしないとね。

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