Day24 朝凪

 夜明け前の海岸を沢山のことを話しながら歩いた。

 再会したのは昨晩のこと、ああ久しぶり、本当に久しぶりと言葉を交わした割にはついさっき別れたばかりのようで、けれど口を開くと待っていた言葉たちがどんどん湧いて出てくる。

 皆で学校帰りに通った肉屋は花屋になった。ぼろくてやっているのかも怪しく、未成年の当時は覗くしか出来なかった居酒屋は今も健在で、入ってみれば普通の安い居酒屋だった。夏休みにコンビニで買っていた一リットルパックの紅茶を久しぶりに飲んでみたら、甘すぎて飲み切れなかった。

 主に話していたのは僕だけのように思う。静かに的確に邪魔をせず返してくれる相槌に昔も今も甘えているなあと思い、それを口にするとやっぱり静かに笑って頷いてくれた。

 波が足をさらおうとして引っ込める。ちょっと待ってくれよ、今話している途中なんだから。細い白波が彼方で綱を引いている。北に南に、あちらとこちら。学生の頃はこうして海を見たら騒いだり、走ったりしたくなったものだけど、今も同じような感じがすると言われ、気持ちが若いなと笑った。

 僕はもう、そこまで騒がしい気持ちにはならない。海は道で、どこへでも繋がっているように思う。道を見て騒いだりはしないだろう。走ったりはしたくなるけれど、今はただ歩いていたい。こうして懐かしい話をしながら、ざわめく海を聞きながら。

 綱引きを終えて白波が消えた。あちらとこちらの混じる頃、水平線に濃い橙色が走る。静かになった朝凪の海が囁く。夜の終りに空と海はいっそう色濃く、水平線を境に双子のように顔を見合わせている。

 ほら、道なんだ。どこへでも繋がる道。彼岸と此岸、今の時期はより近いからこうして歩きやすくなる。水平線が結ぶ彼方を僕は指さした。

 だからまた、たくさん話そう。

 そう、僕の帰る朝凪のころまで。

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