Day12 チョコミント
この季節はチョコミントの商品があちこちで出回っている。いつもは静かな売場や店頭が鮮やかなミント色とチョコレート色で彩られるさまは目にも涼やかだ。昔はチョコミントと言えばアイスぐらいしかなく、それも限られた場所で食べられる特別な味だった。日常では手に取らない、出かけた時に見かけるアイスの自販機で買う非日常の味。食べ始めは非日常を楽しみ、食べ終わりには日常の回帰にやや残念な思いをしながら食べるのがチョコミントというものだった。
なので、仕事終わりで久しぶりに見かけたアイスの自販機で買ったチョコミントにはワクワクしていた。これを食べれば非日常が始まり、食べ終わると日常が戻る。いつもの帰り道がいつもと違う世界へと塗り替えられるような怖さと楽しさが清涼感と共にやって来る。
道端で手拭いを被って踊る猫たちや、炎を吐いて垂れ下がる提灯。足の生えた箒が傍らを駆け抜けていき、それをベンチがよいしょと追いかける。後からとっとっと狸が歩いてきて、どうもと会釈をしていくのでこれはご丁寧にと挨拶をした。ごろごろと駆ける石の毬を互いにつつき合いながら走るのは狛犬で、口を開けた阿の方が何やら疲れているように見え、食べかけのチョコミントアイスを指ですくってあげると目を見開いて喜んだ。吽が欲しそうにしていたので同じようにあげると、阿吽は勢いよく毬を追いかけて夜道の先へ消えていく。残ったチョコミントアイスが棒から零れ落ちそうになるのを、慌てて口で受けて食べ切った。
非日常は終わってしまった。あーあ、と寂しくなりながら棒にわずかに残ったチョコミントをなめて歩いていると、神社が見えてくる。鳥居の両側で門番よろしく通行人を見下ろす狛犬たちの口元から清涼感のある匂いがして、また今度と心の中で呟いた。
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