Day11 錬金術

 顔を変えたいと言ったら錬金術師は不思議そうな顔をした。「ここは病院じゃないぞ」

「知ってる。金を積めば何でもやると聞いた。おれが嫌われるのはこの顔のせいなんだ。それさえ変えれば人生が良くなるはずなんだ」

「顔を変えるのは医者か魔法師の仕事だ。魔道具師の領分でもあるか。錬金術でも出来るが、あんたを材料にした上で根本からの作り変えになる。顔を変えるとかの域じゃない」

「さっきからそのことを頼んでるんだ」

 金貨のつまった袋を置くと、錬金術師は溜息をつく。どうしてそこまで渋るのか、今度は自分が訊ねてみた。

「なぜ、承諾してくれないんだ」

「……まあ、金払いはいいからやるがね。何度も言うが、やったところで変わらんものもあるってことは覚えておいてくれ」


 意気揚々と店を出ていく客を見送っていると、出入りの悪魔が不思議そうな顔でその客を振り返りつつ店へ入る。

「あれ、前にも来てましたよね?」

「顔を変えてくれってさ」

 悪魔は首を傾げる。

「戻せって話じゃなく?」

「あの顔のせいで嫌われるからなんだと」

 悪魔は微妙な顔つきになる。

「いや、あれは本人の性格のせいですよ。錬金術で体ごと作り変えたって、お前の中身が変わらなきゃ意味がないって言えばいいのに言わなかったんですか? 悪い人ですねえ」

 錬金術師は頬杖をついて嘆息する。

「お前に言われたかねぇや」

「まあ、いい金づるではありますか」

 そうだな、と言って錬金術師はにやりと笑った。

「これぞ錬金術」

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