Day9 ぱちぱち

 ぱちぱちとフラスコの中で光が弾けていた。まるで冬の雷を閉じ込めたような美しさと恐ろしさで触れるのも恐る恐るだったが、光が弾けるたびに微かな振動が薄いガラスを通して伝わってそれが面白かった。だが、自分にはそれだけだった。

「侯爵家の長男ですのに」

「次男は反応を見せたとか」

 フラスコの中にいるのは精霊である。掴まえた精霊を閉じ込め、そこで隷属させる術の練習を行う。自分の一族はその術に長けており、弟がフラスコに触れるとぱちぱちと爆ぜていた音はしん、と静かになって光は小さな獣の形を取った。それが正解のようで、自分はどうやら失敗したらしい。

──だって、とても綺麗だったから。

 自分の望む形に整えようとは到底思えない、冬の雷であるならそれは空に放ってあげるべきだと感じた。そうしたら、フラスコの中の光はますます強く弾けるようになった。

 あの子は駄目だ、失敗だ、と表立って囁かれるようになった。家族の態度が目に見えて変わっていった。友人は減り、従者も自分を蔑むようになり、まるでいないもののように扱われるのなら、自分から消えてしまった方がいい。

 けれど、せめてとフラスコを取り出す。あの時、お前には不要だと取り上げようとした両親からどうにか守ったものだった。

 ぱちぱちと光が爆ぜている。その音だけが、自分の側に残ったものだった。

「でも、そこは狭いね」

 フラスコの封を開けると、勢いよく光が飛び出していく。四方八方に飛び散って一つに戻り、また散り、ということを繰り返しながら、ぱちぱちと空気を弾いて華やかに自由を謳う。

 やっぱりこちらの方がいい。フラスコのような狭い中で響かせる音でも、光でもない。空へ戻ろうとするそれを見送っていると、光はふっと向きを変えて自分の元へ戻って来た。

 目の前で火花が散る。

「……一緒に?」

 手を伸ばした。熱くはなく、冷たくもない。あの綺麗な光と一緒になれたことが嬉しかったし、もう一人ではないことに心から安堵した。

 光は体を包み込み、空気を弾きながら空へと昇っていく。自分を蔑んだ家族も大地も遥かに遠く、心を曇らせるものはぱちぱちと爆ぜて散り、そして消えていった。

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