Day4 アクアリウム

 材料集めから奔走し、加工を続けて三徹目、完成を間近に控えたアクアリウムの中へ品々を込めていく。

 底には終わりの火山の岩を砕いたものを。赤茶けたそれらは彩りとこれから入れていく物を定着させる力がある。果ての島の流木は白くて角のようだが、これで浄水作用のある木だった。少し飛び出てしまうが問題ない。仕舞いの泉で失敬した水草を水に浸すと死霊を繋ぎとめる穏やかな光が宿る。落ち池から連れ出した目のない魚は新しい住居をお気に召すだろうか──問題なさそうだ。飛び出そうとする死霊の足を喰ってくれていた。

「僕にもっと力があればちゃんと封印出来たんだけど」

 暴虐の限りを尽くした竜を倒したはいいが、そこで力尽きた。今は倒したとしても、時間と共に再生する竜は封印が絶対である。だが、王国にも自分にも余力はなかった。

 そこで、呪われた地の物で作る檻の中へ入れてはどうかと提案され、倒した手前、放っておくわけにもいかなかった自分がせっせと呪いのアクアリウムを作っている次第である。

「はーあ」

 浴槽ほどの大きさのアクアリムの真ん中には余白を作っている。そこへ、竜の首を沈めると、辺りの品々が生き生きと首を囲み始めた。竜の口から泡立つ息は木が吸い、逃れようとする首を水草や底砂が留め、魚が群がって首の切れ端から食んでいく。

 すっかり疲れ切っていた自分はそれをぼんやりと眺めていた。これはこれで案外面白い。様々な物の持つ特性が絡み合って一つの世界を作り出す。

 勇者の老後は呪いのアクアリウム制作、これも悪くないなと頷く。

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