Escapism

大神律

1.Gespenst

 儚い色の空に底の見えぬ広大な穴。涙の園には可憐な花々が咲き誇るが、漂う感情は酷く平らであった。

 ここはどこなのかもわからずに、燻り残る批判性を尾にして、なるがままに歩むことにする。


 「わずか余りの愛であっても全ては生の輪の中、思う事すら許されず、どこへ行こうというのですか」


 理逆の言霊はまた逆さまに浮かんで語り掛けてきた。答える様もない自分に、けれども直視されては離せない輪に、私はただ朧気でいるしかなかった。


 「死神は必ず。ゆえに飛行するのであればお供します、思想も兼ねてはならないのを忘れぬように」


 空には園がいくらか浮かぶ。されど私に行く果てなく、思う果てもなく、言霊に尋ねることにした。

 言霊は面持ち無く、私を浮かべた。


 「人は空を飛べはしない。けれども私は人である。ならばここがその法を為さない場であるより他はない。しかして人であろうとすればその儚さは園に落ちることでしょう」


 とはいえ言霊は私をどこにもやれないよう。七色の園にも染まれずに、透明なままの持ち様であっては、やはりあてなどないでしょう。

 物無きはまさしく引力無き、私はどこにも落ちることはできず。すでに褪せた故に。


 「ならば園をご覧しましょう。好みあれば沈まることでしょう」


 萎んでは熱せられ、干乾びては掠れ、今それは無きに等しく。残る涙無ければ共に質量はなし。ゆえに私思うところなく、ただ読むところである。


 僅かに疎ら、黒く漂う天の粒、また少しばかり風に運ばれてはしばらく留まり、やがて水となって涙の園へ。

 他の色無きは落ちた涙に咲く花に色を思い出したのでしょうか。一粒はまた降るばかり、一粒は他に染まっては風に流されるばかり。

 残りはただ読むばかり。


 「かの涙、想像するに滴るものでしょう。輪を以てしてはむしろ滞るあまりでしょうか」


 底の見えぬ穴、言霊はそれを指しては私に云いつけた。

 その思惑は同じく想うところなく、私は聞き逃すばかりである。


 「ならば続けて浮かびましょう。止まりて時の内、漂うにあたるものもあるでしょうか」


 言霊はゆらりと、地は足に踏まれずまま、されど下の花もそうでしょう。わずかあまりに重くなったところに言霊はぐらり、あるはずない笑みを浮かべたよう。

 しかしてまた想うことなく、別の園へ褪せるばかりであった。

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