第52話 いい奴

「あのさ――」


「はい~、そこのバカっプルはイチャイチャしないでください~。あと、お涙展開とか私求めてないから~」


 俺の言葉を遮って、やれやれとため息を吐く雰囲気クラッシャーの寧々。


「せっかく私たちがポジティブなんですから、先輩たちもテンション上げてくれなきゃ困りますよ」


 と、続けて絢音。


「うん、そうだね。そうかもね」


「ま、俺ららしいな」


「私たち、らしい」


 目尻に溢れそうになっている雫を、服の袖で拭う未奈。

 深く息を吸い、パチンと自分を頬を叩くと、


「よし! あいつらシバくぞ!」


 ヤンキーのようなセリフを吐く。


「おらおら~! いてこましてるぞわれ~!」


「この二人に手を出すのは許さないぞ~!」


 今から抗争でも始まるのかな?

 でもまぁ……気合は十分だ。結果はどうであれ、仕返しが出来て、未奈の心が晴れるなら俺はそれでいいのだ。


「うっし! かましたるか!」


 俺のも三人に乗っかって、拳を高く上げる。

 仲間に恵まれ、彼女にも恵まれて、今こうして教室に集まっている。

 こんなのを誰かにぶち壊されて溜まるか。


「とりあえず、来るまで待機だね」


「だな。設置は終わったし、あと三十分くらいは暇だな」


「コンビニでも行っとく?」


「ここから離れるのはヤバいから、静かに待ってた方がいいと思う」


「そっか、喉乾いたんだけど我慢しよっと」


「俺が買ってたやつ飲むか? コーヒーだけど」


「飲む飲む!」


 バッグからペットボトルのコーヒーを取り出すと、未奈に渡す。

 貰ったそれを、ゴクゴクと美味しそうに飲む。

 その様子を、ジトっと見てくる寧々と絢音。


「なんだよ」


「いや? 相変わらずイチャイチャしてるなーと」


「別にしてないだろ」


「流石、幼馴染カップル。やり取りが初々しくもなんともない」


「当たり前だろ。幼馴染なんだから」


 付き合った途端に会話がぎこちなくなる方が逆に気持ち悪いだろ。

 普通の会話すらまともにできなくなったらおしまいだ。

 関節キスだって、付き合う前からずっとしてたんだから、できて当たり前。

 でも、まじまじと見られてるのは少し恥ずかしいけど。


「はぁーあ。こんなの見せつけられてたらやけ食いしたくなってきたわー」


「先輩、コンビニ行きませんか? 甘々なの見せられてると、なんか辛いも食べたくなってきました」


「さんせーい」


 ムスッとする絢音は、あくびをする寧々の手を引きながら教室を後にしようとする。

 気を遣ってるのバレバレなんだよな。


 様子を見ただけで帰ろうなんて、いい奴かよ二人とも。

 まぁ……知ってるんだけどね。


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