第51話 私たちを差し置いて

「なんだ、お前らも来てたのかよ」


 扉の方を振り向くと、よっと手を上げる。


「待ちきれなくてね。どうせ朝から仕込みするって思ってたし」


「仕込みって……」


「ま、これならあいつらも懲りるでしょ」


「そうだといいけどな」


「……」


 寧々と話している間、横で静かに俯いている未奈。

 責任を感じてるのだろうか。


 二人を差し置いて俺と付き合ったから、彼女としてちゃんとしようとした矢先にこんなことになってしまったことへの責任。

 そして、迷惑を掛けてしまったことへの申し訳なさ。


「未奈、これから楽しいことが起きるのにそんな顔してたら意味ないぞ」


 しかし、そんな気持ちはこいつらに無用である。


「そうよ! ビシッとしないさい! ビシッと!」


「今日は何しても許される機会なんです! 未奈先輩がやる気じゃないと私たちも応援してる意味ないじゃないですか!」


 未奈の肩を叩きながら、調子のいい声で言う二人。

 そう。こいつらには悲しい顔を向けるより、楽しそうな顔を向ける方がよっぽどいい。


 きっと二人もそう思っている。


「そ~れ~に! 私たちを差し置いて蓮馬と付き合ったんだから、もっとちゃんとしてよね」


 そう言って、腕を組んでプクっと膨れる寧々。


「寧々先輩⁉ 言っちゃっていいんですか⁉」


 衝撃発言に、ぎょっと目を開く絢音。


「ま、見て見ぬフリされてるんのは分かってたし、この際もういいかなって」


「私もそれは薄々勘づいてましたけど……」


「どっかの誰かさんは結局幼馴染を選んじゃいましたけどね」


「やっぱり勝ちヒロインは幼馴染なんですよ……ラブコメの最後は大体そうです」


 負けヒロインである二人の視線が俺へと向く。


「えっとー、俺はどうゆう反応したら正解?」


 今こんなこと言われても、俺からしたら気まずいだけだろ?

 相手が寧々と絢音だから半減しているものの、反応には困るものは困る。


「でも、今後イチャイチャしてるところを冷やかすのは面白そうだけどね」


「影からヒューヒューって言ってあげますよ」


「いやまぁ、いいけど」


 ニヤっとムカつく笑みを浮かべる二人に、俺は苦笑いをする。


「あの……」


 そんな中、俯いた未奈は顔を上げる。


「ありがと。昨日のことも、蓮馬のことも。二人には助けられてばっかりだね」


 口からポロリと出たのは、未奈の全てがこもった感謝の気持ち。


「私、頑張るよ。二人の為にも蓮馬の為にも。だから負けない、負けたくない。周りにとやかく言われても、私は蓮馬が好きなんだから」


「未奈……」


 瞳の奥がジーンと熱くなるのを感じる。

 俺も、二人には感謝しかない。ライバルだったのに未奈を応援してくれて、今回も背中を押してくれて。


 この恩を返したくても、返せないくらい、ありがとうでいっぱいだ。

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