第48話 上書き

「DMのスクショとか、他にも目に見える証拠があるなら撮っておいて欲しい」


 テーブルに置いてある未奈のスマホを指差すと、


「いーっぱいあるよ。毎日のようにしつこくDMされてたから」


 フっと何かを思い出したかのように軽く鼻で笑う未奈。


「それは都合いい。けど、もう今日からブロックな」


「大丈夫。もう済みだから」


「あれ、早いな」


 まるで俺に言われることを予想していたような行動に、俺は関心してしまう。


「蓮馬の彼女になるって考えたら、そうゆうのは抹消しないなと思って、結構前にブロックはしてた」


 そして、心がキュンとなる言葉まで追加で言われてしまう俺。


「でも大丈夫! DMとかはまだ見れるから。証拠は全部撮っておくよ」


「お、おう」


 未奈の不意打ちに、一言しか返事ができなくなる。


 あれ……? 未奈を彼女として認識し始めると……おかしいな? いつもの百億倍可愛く感じるんだが?


 表情、仕草、言動、全てが俺を可愛いに溺れさせてくる。


「そ、そうだ。あとはあいつらの言ってた言葉も忘れないようにメモしておいてな」


「頭に嫌ほどこびりついてるから忘れないよ」


「それならいいんだけど」


「でも……メモに取っておこうかな。忘れたいし」


 と、未奈はスマホを取り、ササっとフリック入力をし始める。

 そのまま未奈は続けて、


「忘れたいというか、蓮馬が上書きしてくれるでしょ?」


 スマホの画面から顔を上げて、チラっと俺を見る未奈。

 上書き、だと?


 今すぐその上書きとやらしていいですかね⁉ あんなやつらなんか忘れるくらいのことしてやろうではないか。


 思い出すことすらできなくなるくらいの凄いこと。


 まぁ何とは言わないでおくが、どっちにしろ俺たちの最初は激しいことになるだろう。

 一七年分が詰まったものだからな。嫌でも過去のやつらなんて忘れるくらいの激しさになりそうだ。


「ちなみに、今日はおばさん何時に帰ってくる予定?」


 下心丸出しで聞いてみる。


「夕方よりは後になると思うけど、多分」


「今から七時間後か……」


「今からシたら、何回も出来ちゃうね……」


 刹那、シーンと部屋の中は静まり返る。


 ふと未奈と目が合うと、引き寄せられるように体が未奈の方へと動く。

 何も言わずともキスをして、未奈は俺の手を掴み、自分の胸へと誘導する。

 あいつらへの復讐のことは、今は後回しだ。


 もう、未奈のことしか考えられない。


 お互いがお互いを貪るように、欲しがり求める。

 そんな状態でまともに居られるわけもなく、俺たちは自分の世界へと没入した。




 そして夜まで続いたベッドの軋みは、当然リビングまで響き渡っており、いつの間にか帰ってきていたおばさんにバレていたのは……また別の話。


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