第47話 復讐の時間

トロンとした未奈の瞳が、一直線に俺を見つめる。

物欲しそうに見ている。

そんな未奈は、唇を人差し指でなぞりながら、


「キス、しちゃったね」


と、呟く。


「ま、これが俺の気持ちだよ」


「うん。ちゃんと伝わったから」


「待たせてごめん」


「随分と遠回りしちゃったけどね」


「すれ違って、間違えて。それでも、やっぱりここに戻ってきた」


「それも幼馴染だから?」


クスっと未奈は笑う。


「いや、愛があるから……かな」


少しカッコつけて、照れくさいセリフを言ってみる。

長い、長いすれ違い。


普通だったら縁が切れていてもおかしくないのに、こうして俺たちは結ばれた。

腐れ縁の幼馴染だからかもしれないが、俺は声を大にして言いたい。

相手を想う心が無ければ、絶対に結ばれなかった。


こうして、どうしようもない幼馴染カップルが爆誕したのだが……。


「んで? どうするよ」


ニヤっと、俺は不快な笑みを浮かべる。


悲劇からの感動シーンはもうおしまいだ。俺がこんなんで終わらせるわけがない。

これから始まるのは復讐タイムだ。


俺たちみたいなバカを怒らせてしまったからには、タダじゃおかない。

バカのするやり返しは、それはもう卑劣で外道なものかもしれないからな。


「ここから挽回できる気がしないんだけど……」


察した未奈であったが、まだ少し弱気のようだ。


「今更バラまかれたものを、綺麗になかったことにするなんて俺もさらさら考えててない」


「じゃあどうやるのよ」


「んなの簡単だよ。同じようなことを同じように大勢の前でバラまいてやればいいんだよ」


「同じようなこと?」


「男っていうのは、ヤることしか頭にない猿ばっかだ。ヤるためなら手段だって選ばない」


「だからどうしろっていうのよ」


「そいつらのDM、行為中のキモい言葉、行動。性癖まで、同じように大勢の前でバラまいてやればいいのさ」


我ながら、天才的なアイデアだと思う。

これをやられたら、相当な精神的ダメージを与えられる。


過去の自分がキモければキモいほど、現在の自分にダメージが来るという地獄みたいな復讐。

周囲の目は格段に痛くなるし、加えて女性恐怖症になりかねない。

この際、一生勃たないものにしてやろう。


これをしても、俺たちは一切悪くない。ただただ、やり取りを公開しただけだ。

その内容が問題だったとしても、それは全部過去の自分なんだからな。


「それ、いいね」


「今から晒されたときのあいつらの顔を想像するだけでゾクゾクしてくるわ」

顔を合わせた俺と未奈は、どちらも悪い顔をしている。相手の不幸を楽しむ、悪役の顔。


どうせ最低な評判がついているんだ。もういい子ぶったって仕方がない。

はぁ……晒されたら、さぞ怒りと羞恥に満ち溢れた顔をするんだろうな。楽しみ過ぎて興奮すらしてくる。

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