第39話 待って

 男女二人が多目的トイレって……状況が状況とて、色々とマズくないか?

 ほら、有名人だって問題を起こしてるくらいだし、防音ではないものの密室で、少し座れるところがあって、何をとは言わないが、拭くものまである。


 証拠隠滅で流せる環境でもあるし。

 やましいことをするのにはもってこいの環境だ。


 ……ここではないが、実際俺もスリルを楽しんでシたことがあるし。まぁ、ハマる理由が分かってしまう。


「ちょ、そんなおっきい声出さないの!」


「んぐっ……!」


 つい大声を出しまう俺の口を、馬乗りになったまま塞ぐ未奈。

 これじゃ、俺が逆レイプされてるみたいじゃんか。


 エロマンガでよくある「声を出すな、静かにしてたら優しくシてやるから」みたいな定番シチュエーションの逆!


 ストーカーのことに焦って気づいていないだろうが、冷静になったら未奈も俺と同じことを考えるだろう。


「足音は……なくなったみたいだね」


「……はぁ、そうみたいだな」


 口元から未奈の手を退けると、耳を澄ませて周囲の音を確認する。

 下校時間を過ぎているということもあり、ストーカー以外にも廊下に人の気配はない。


 慎重な未奈は、トイレのドアに耳を当てにいく。

 その隙をついて、俺は蓋の閉められている便座に座り込む。


「腰痛ってぇ~。倒れ込んだときに床にぶつけたわ」


「それはごめんって」


「で? 廊下に気配はあるか?」


「多分、いないと思うけど」


「それなら、早く出た方がいいな」


「え、なんで?」


「下駄箱の方にあのストーカーがいないうちに逃げた方がいいだろ。それに男女が多目的トイレにって、見回りの人が来たら何を思われるか……」


「なんか、密会してるみたいだね」


「ざわと口にしなかったのに言うなよ!」


 気を遣って言わなかったのに、この状況を冷静に分析するなよ!

 俺と周りを交互に見て顔をボっと赤くする未奈は、


「イケナイことしてる高校生みたいだよね。不良になったみたい」


「不良じゃなくて、傍から見たらただの破廉恥高校生だよ」


 家まで我慢できなくてここでシちゃいました、っていう性欲爆発高校生にしか見えないだろ。


「ほら、早く出るぞ」


 誰かに見られて勘違いされるのもごめんなので、俺は足早にトイレから出ようとする。

 しかし、取っ手に手を掛けた瞬間、未奈は俺の手を掴んで扉を開けようとするのを阻止した。


「まだ待って!」


 俺の手に伝わる、未奈の温もり。そして、俺の顔を見上げる火照った未奈の顔。

 その一つ一つで全て察してしまう。


 え? まさかこれ、ヤる流れ?

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