第40話 んにゃ!?
時が止ったかのように、シーンと静まり返る。
次の瞬間に未奈は、
「バカじゃないの? まだ潜んでるかもしれないじゃん。相手が諦めてから帰るのが普通でしょ」
普通に半ギレしていた。
脳内がピンク色に染められていた俺は、一気に現実に戻される。
ヤバい……多目的トイレ効果で、全ての行動と言動がエロい方向に変換されてしまう。
早くここから出ないと。外にあのストーカーが居るかもしれないが、俺が外に出たとて関係ない。
「俺だけ先に出る。あいつが居ないことを確認したらメッセージするから、ここで待機してろ」
「蓮馬は待つってことできないの? 危ないって」
「目を付けられてるのはお前だけだろ。俺はあの男と面識すらない」
「それなんだけど……」
「なんだよ」
「蓮馬も私の幼馴染ってことでマーキングされてるらしい」
「なん……だと」
要するに、俺も危ないってことだよな。
てかなんで俺までマーキングされなきゃいけないんだよ! なんも関係ないだろ!
これで外に出れなくなったぞ。
ここに居れば居るほど、ピンクな雰囲気が醸し出てくるのに……そこは耐えるしかないか。
「ま、ゆっくりしようよ。数分もすればいなくなると思うし」
「下駄箱に靴がある限り、帰らなそうだけどな」
「靴だけでも取りに行きたいところよね」
どうせ下駄箱の位置も覚えられてるだろうし、靴があったら何時間でも構内を探し回られるだろう。
「どうする? 靴取りに行く?」
「そうだな、ちょっと様子を見てから取り行くか」
「ドアを開けるのはゆっくりだからね」
「んなの分かってるわ」
お互い顔を合わせると、覚悟を決めて頷く。
扉に手を掛けると、そーっと音を立てないように開ける。
顔だけをひょこりと出して、廊下を隅々まで確認する。
「いない……みたいだな」
「気を付けて行ってきてね」
「それ、死亡フラグだからやめてくれ」
回収しなかったことがなかったからな……今から怖い。
必要以上に周囲を警戒しながら、廊下へと一歩踏み出す。
だが……今回のフラグ回収は早かった。
――プルルルっ
「……んにゃ⁉」
突然、俺の鳴り響いた電話の音に、これまで聞いたこともない声を上げる未奈。
「バっ……おまっ、そんな大きい声出したら――」
「おい、いるのか?」
遠くの方から、野太い声と足音が聞こえてくる。
「ヤバっ、マジでヤバっ!」
「とりあえずドアを!」
ストーカーに姿を見られる前に、勢いよく扉を再度閉める。
電話の音を止めるためにも、スマホを取り出し、誰かの着信かを見てみる。
「こんなときに限って……なんでこいつから……」
画面を見た瞬間、ピキっと俺の額には血管が浮き出る。
もうストーカーのことなどお構いなしに電話に出ると、
「あ、もしもし?」
「お前は毎回、まいっかい! タイミングが悪いんだよ絢音!」
「え、私はただ――」
絢音の言葉を遮るように怒鳴りつけると、すぐに電話を切る。
何の要件かは知らんが、今はそれどころじゃないんだよ。
こっちは多目的トイレに引きこもらなきゃいけない状況だし、その状況を脱出しようとしているときに限って……今度会ったら、絶対怒鳴ってやる。
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