第33話 すれ違い


 ショッピングモールから出ようとしたとき、俺のスマホがポケットの中で震える。

 どうせ、電話の主はあの三人の誰か。

 要件は多分、戻ってこいとかだろう。


 せっかくここまで来たのに、またあそこへ向かわなきゃいけないのか。

 面倒なことになってないと言いがな。


 まだ呼ばれたのが確定ではないので、電話に出て確認しようとする俺。

 電話の主は寧々。


 スマホに電話が掛かってきているのとは別に、寧々から一件のメッセージが届いていた。

 何かこれと言って思い当たる節はなかったが、先に電話に出てはいけないような気がして、俺はバイブするスマホをそのまま開き、メッセージを確認する。


『黙って聞いてて』


 たった一言。

 電話を掛けてきたくせに黙ってろだ? なんのおふざけなんだ?


 最初は何を言っているか分からなかったが、とりあえず一言も話さずに電話に出てみる俺。


『ねね、なんで未奈は蓮馬と付き合わないの?』


 電話に出た瞬間、寧々が電話を掛けた理由、そして俺が喋ってはいけない理由が分かる。

 そうゆうことか。探りを入れるんだな。


 俺をおちょくるためなのか、ただ単に自分が興味あるかなのかは分からないが。

 まぁ、ライバル視してるから、敵がどうゆう心境なのか気になるのかもしれないな。


『いきなりなに』


『素朴な疑問だよ。幼馴染であんなに仲がいいし、未奈はどうせ蓮馬のことがずっと好きだろうに、なんで付き合わないのかなーって』


『私が蓮馬を好き⁉ いつどこでそれを⁉』


『自分がいつも何を言ってるか分かっててそれを言ってる? じゃないなら病院に行った方がいいよ』


『そうですよ。好きなら告白すればいいじゃないですか』


 二人の会話に食い気味に、話に加わる絢音。

 数秒の間沈黙が続くと、未奈は口にする。


『好きだけど……私に告白する資格なんてないの』


 その声はどこか悲しそうで、あいつが今、どんな表情をしているかが俺にはよく伝わってくる。

 でも、電話越しではあったが、好きという気持ちを改めて未奈の口から聞けてよかった。


 寧々のやつ、まさかこれを俺に聞かせたくでわざと俺を帰らせたのか?


 いや、そうなら未奈をライバル視なんてしない。本当に寧々は何がしたいんだ? ますます寧々の思惑が分からないぞ。


『資格がないって、そんなことないですよ』


『別に、誰が誰に告白するのだって自由なんだからさ』


 励ますように、二人は未奈を背中を押す。


『そうゆうんじゃなくてさ、私が私を許せないの。だって、蓮馬を一回諦めてさ、その寂しさとか、欲求を満たすために他の男とシちゃってるんだよ? 心の中で蓮馬が好きだって、私のやってることは最低なんだよ』


『そんなの、蓮馬も同じに決まってるじゃん。未奈も分かってるんでしょ?』


『……』


『お互い、すれ違ってるんだって。過去なんて関係ない』


『それにっ……! 今更、告白なんてしたって……』


 段々と、未奈の声が細くなる。

 未奈も俺と同じだったんだ。


 諦めて、寂しくなった心を誰かに埋めてもらいたくて、それでもやっぱ好きで。

 全く俺と同じじゃないか。


 寧々の言った通り、ただのすれ違いだったんだ。

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