第32話 女子会
「ちょ、近い近い!」
距離を詰められて身を引いた俺であったが、背もたれにそれを止められてしまう。
「どうなの! 答えてよ!」
「あーぁ、なんで毎回こうなんだよ!」
この喧嘩の発端である寧々と絢音は、俺たちの間に入ることもなく、
「ほら、始まった」
「痴話げんかだ」
二人でヒソヒソニヤニヤとこちらを見ているだけ。
しかし、ヒソヒソと話していた二人の声は、次第に大きくなっていった。
「え、今痴話げんかって言った?」
「言いましたけど」
「それってさ、二人が他愛ない喧嘩をしてる恋人とか夫婦に見えるってことだよね」
「そうですね。あ……」
「私たちにそう見えるなら……」
「もうそうゆうことですよね」
二人は向き合うと、深刻そうな顔をして、再度俺たちの方を見る。
そして、二人同時にバっと俺と未奈の間に体をねじ込むと、
「喧嘩はダメ!」
「そう、もっと幼馴染らしく仲良く! 幼馴染らしく!」
何を思ったのか、喧嘩の仲裁に入ってくる。
その表情がなんとも真剣で、俺はその異様な光景に目を細めてしまう。
すごい手のひら返しだな。
俺と未奈が恋人とか夫婦に見えるから止めに入るって、単純すぎて面白い。
二人の反応に、未奈も満足気な様子だった。
ぜぇぜぇと息を切らした寧々は、深呼吸を一回挟み、
「蓮馬、今日は帰ってくれない? 急遽女子会を開きたくなったから」
と、俺の肩を叩く。
「ここ三人でか?」
「そう。蓮馬には関係ない話だから、居てもつまらないだろうし」
「その発言、怪しいぞ」
疑いの目を向ける俺であったが、よく考えろ。
俺のいないところで話をされているのは不安ではあるが、これ以上絡まれるのも俺はごめんだ。
天秤に掛けても、傾くのは帰宅の方。
「未奈ちゃんも、今日は用事終わったみたいだし、それでいいよね?」
「え、まだ私は蓮馬と――」
「先輩、忘れ物ないですか? それならほら、ご帰宅ください!」
寧々と絢音の阿吽の呼吸で、俺はサラっとその場から解放される。
「お、おう」
引き戻される可能性もあるので、俺は「じゃぁな」と手を振るとその場を去る。
ここから何を話されてるか、恐怖でしかない。
でも、俺が居たところで変わらないだろうし、その話は夜に個別に電話でもして辻褄を合わせよう。
その電話の内容で、翌日の俺が変わるといっても過言ではない。
生か死か。今から武者震いしてくるよ……。
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