第27話 ちょっと、話しましょうか

「そうゆうことで、今日のところはお引き取り願いますー」


「し、仕方ないわね……明日に取っといてあげるわよ」


 顔を赤らめる絢音の背中を押す俺。

 そうそう。そのまま帰るんだ。明日ちゃんと楽しませてやるから。

 まぁ、嘘なんですけど。


「また明日ね」


「おう。また明日な」


 半身振り返りながら絢音ははにかむと、店の外に向かう。

 その後ろ姿に、安堵のため息を吐く俺であったが、


「蓮馬お待たせー! ちょっと時間かかっちゃった」


 物語の主人公というものは、ベストタイミングで登場するものだ。今回に限っては、バッドタイミング極まりない。


「あ……」


「……ん?」


 俺の名前を呼ぶ未奈の声に、声を漏らす俺と、店外に出る手前で振り向く絢音。


「え……ん? なんでこっちをジっと見てくるの?」


 口を開きながら固まる俺に、小首を傾げる未奈。


「いや、えっとな」


「なに? 言いたいことがあるなら言えば?」


「言いたいことも何も……」


 俺の視線は、絢音の方へと動く。


 その場で立ち止まってる絢音は刹那、未奈の方へと足早に向かう。


「今日、蓮馬と一緒に居る人ですよね」


 未奈の前で立ち止まると、絢音は未奈の顔を見上げながら言う。


「え、そうだけど……誰? 蓮馬の知り合い」


「知り合いも何も……いいや、私のことはいいんです。あなたこそ何者ですか? 蓮馬とはどうゆう関係ですか?」


「関係性を聞かれても……今は、幼馴染って感じかな」


「怪しい。今はって言葉が怪しすぎる」


 疑いの眼差しを向ける絢音に、目を逸らす未奈。

 その逸らした目線は俺の方へと向き、助けを求められている。


 しかし、俺に出来ることなど何もない。頑張れとしか言えないぞ?

 何か俺が変に巻き込まれそうになったときには、逃げる。ダッシュで逃げてやるからな。


 まぁでも、二人だけで話をされると、俺も都合が悪いわけで。

 絢音と俺が体の関係にだということを未奈に知られたら……ライバルが増えたと未奈も闘志を燃やしそう。


 また寧々のときの二の舞になってしまう。

 下着店から走って逃げるなんて、俺はしたくないからな。

 それこそ本当に犯罪者みたいだ。


 嫌気が差すが、二人の間に入ろうと肩を竦めながら近づく。


「蓮馬、誰なの?」


「先輩、この人は本当に幼馴染なんですか?」


 想定していた通り、最初の質問はこれだ。


 目の前に居る人が誰がを知らなければ、話は進まないからな。


「こちらに居るのは、俺の幼馴染の未奈。んで、こっちにいるのは後輩の絢音」


 まるで司会のように、円滑にお互いの自己紹介を代理でしてあげる俺。


「ホンモノの幼馴染、ねぇ」


「蓮馬に仲のいい女子の後輩が……聞いたことなかった」


「はい。話が終わったところで、解散にしましょう。それじゃ」


 早く二人を遠ざけようと、未奈の肩を掴んで引っ張る俺。

 このまま円滑に進めばよかったのだが、そうはいかないのが現実。


「ちょっと……場所を変えて話しましょうか」


 心が笑っていない笑みを、俺に向けてくる俺。

 肩を掴む力が、絶対に逃がさないという気持ちをよく表していた。


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