第16話 選んで!

「は? お前何言って――」


 その言葉に、俺は不意にも顔を赤らめてしまう。

 それを見逃さなかった未奈は、


「あれ~? そんなに顔赤くしちゃって~。そんなに私とシたかったの?」


 上目遣いで畳みかけてくる。

 待て待て! なんで未奈も小悪魔に俺を誘ってくるんだよ! そこまで寧々対抗心燃やさなくてもいいから!


 俺たちは幼馴染だよな⁉ あの事件のせいで関係が少し変わってしまうのは分かるけど、それでもこれはやりすぎだ!


 それともこいつ……ガチで言ってるのか……?


「ねぇ……私の方がよくない? 幼馴染としかできないこと、シようよ」


 徐々に俺の方に近づき、最終的に耳打ちをする。


 ……完全に誘われている。この瞳、この言い方。これが嘘じゃないことは分かる。


「ちょっと! 蓮馬は寧々とする約束だったんだから! 邪魔しないでよね!」


 二人だけの空間を作り出してしまった俺たちに、寧々は嫉妬からか俺から未奈を引き剥がす。


「蓮馬も蓮馬だよ! 約束はちゃんと守りなさいよね!」


「まだ俺は何も言ってないんだが?」


「未奈の方に意識が傾いてましたぁ~! 鼻の下伸ばしちゃって、ホント最悪」


「なんで説教くらうハメになるんだよ……」


「一七年間揉めなかったFカップより、すぐに揉めるCカップの方がいいでしょ!」


「どんな比較してるんだよお前」


 胸を張る寧々に、俺は少し目線を落しながらも困惑する。

 てか、未奈はFもあるのか……そんなに成長していたなんて、幼馴染としてなんか嬉しい。

 こんなに大きくなって、と親のような気持ちになる。


「だから、今日は寧々と気持ちくなろ? いっぱいシようよ」


 俺の腕に、胸を押し付けながら誘惑してくる寧々。


「ダメ。蓮馬は私とするの。蓮馬はおっきいのは……イヤ?」


 それを見かねた未奈は、すかさずもう片方の腕に胸を押し付けてくる。

 あ、両腕が幸せすぎる……ってそんな場合ではない。これ絶対にどちらかを選ばなきゃいけないよな?


「蓮馬、やっぱり寧々とシたいよね?」


「いいや、蓮馬は私とシたいに決まってる! 顔が物語ってた!」


「物語ってない!」


「あぁ~! このままじゃ埒が明かない!」


 決着がつかないことに地団駄を踏んだ未奈は、


「こうなったら、どっちとシたいか蓮馬が決めてよ!」


 と、全て俺任せにした。


「なんで俺が……」


 選べるわけないだろ。それに、どちらを選んだにしても、選ばれた当人は嬉しいだろうが、俺は選ばれなかった方にとやかく言われる。

 選ばなければいけないが、選んでもいけない。つまり、詰みだ。


「うーん、難しいな~」


 どうやってこの状況を回避しようかと、悩んでるフリをしながら必死に考えてると、


「蓮馬が決められないんだったらだったら私がする!」


「ダメ! 私!」


「蓮馬!いいから決めて!」


「蓮馬はどっちとシたいのよ!」


「「答えなさい!」」


 また言い争いが勃発する。

 これは、早く回避しなければ逃げられなくなりそうだ。

 だから、こういうときは早め早めの行動だ。本当に詰んで動けなくなる前に、一か八かに賭けよう。


「俺は……」


 と言いかけた刹那、何事もなかったかのように一歩前に出ると、そのまま廊下を走って逃亡する。


「あ!」


「逃げた!」


 後ろから絶叫と共に、ドタドタと足音が聞こえてくるが、気にせず走る。

 こいつらが俺に追いつけるわけがない。学校で上手く捲いてから、気付かれないように帰ろう。


 逃げたはいいものの……明日の学校が恐怖でしかない。

 二人に詰められるのが確定している。


 まぁ、そのときはそのときだ。明日の俺が頑張ってくれるはずだ。

 頑張れよ! 明日の俺!


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