第12話 そんなに私がいいんだ

「これ、本人には内緒だからね」


 しーっと、口元に人差し指を置く寧々。


「いわねーよ。ただでさえどっちもヤってることを見て見ぬフリしてるんだから」


「それもそうだね」


「はぁ……色々心配だよ。これからは頭の片隅にあの件がずっとあるんだから」


「私も、今回の件で未奈に敵対されてないといいけど……」


 不安そうに肩を竦める。

 俺とシていた相手が寧々だということは、言わなかっただけで未奈も分かっているはずだ。


 未奈は寧々のことを友達という認識を持っているだろうけど、それが壊れないかが心配だ。

 お互い敵視し合って、ライバルのようになったら色々めんどくさそう。


 いやいや、なんのライバルだよ。寧々に釣られて俺も二人が知らないうちにバチバチにやりあってる仲みたいに解釈しちゃったではないか。


「てか、俺も未奈に気付かれれてるだろうけど、あいつにはヤりまくってること内緒だからな」


 寧々が口を滑らせて言わないように、一応念を押しておく。


「言わないって。それに、最近は控えめじゃん」


「最近は、とか言うなよ」


「ホントのことじゃん。ちょっと前とは違って、今は私としかシてないし」


「言われてみれば、そうかもしれないな」


 少し前までは、誘われたらOKするくらい軽い俺であったが、本当に最近は誘われても断ってる。単純に人間関係がめんどくさくなっただけだけど。

 だから、最近は何も気を遣わない寧々としかシてない。


「へぇー、そんなに私がいいんだ」


 天井を見ながら思い返している俺に、寧々は頬杖をつきながら小悪魔な笑みを浮かべてくる。


「別にそんなんじゃないから」


「正直に言ってくれたらシてあげるのに~」


「何を」


「蓮馬の大好きな、メ・イ・ド・の・コ・ス・プ・レ」


「んっ……」


 上目遣いで言われたその言葉に、あからさまに反応してしまう。


「どう? 私のメイド。前に褒めてくれたから、またしてあげよーかなって思ったけど?」


「メイドはして欲しいけど……それを認めるのは、できないかも」


「なんでよ。私が嫌なの?」


「それも違うというかなんというか」


「じゃぁ、私がいいって言ってよ」


 席から立ち上がり、グーンと顔を近づけてくる寧々。

 体だけの関係であるのなら、寧々が一番いいのかもしれない。


 しかし、俺が誰かとシているのには理由がある。多分それは、未奈も同じ理由だろう。

 これをうち明かすのは、未奈と何も隠さず、赤裸々に話すときにしよう。

 だから、今は関係ない。ということは、俺の言うことは一つだけ。


「決してお前がいいってわけじゃないけど、コスプレはしてください!」


 メイドコスプレが見たいんだ!

 王道だが、人気があるだけのエロさがあるメイドコス。そこに猫耳がついていたらオーバーキルすぎる。


 この前、寧々がしてくれたのはミニスカートのメイドだったから、次にしてくれるなら切実に猫耳がいい。

 しっぽがあったらなおよし。


 そのしっぽがどこから生えてるかとか、そういう話はただの俺の癖なので、詳しくは語らないでおこう。


「まぁいいや。とりあえず、放課後は一緒に帰るからね」


 不貞腐れた顔をした寧々は、プクッと頬を膨らませながら前を向く。

 放課後……なんか嫌な予感がするんだよな。


 いつもは帰りも未奈と一緒だけど、今日は朝も誘われなかったし……大丈夫だよな?


 俺と寧々が二人で帰るところなんて見られたら……って、フラグを立てるのはやめよう。

 こういうときのお約束は、フラグ回収なんだからな。

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