第4話 二つの意味でスゴイ

「俺はちょっとしか見てないな」


 端から端まで全部見てたと嘘を言って茶化してもいいのだが、これ以上話をややこしくしたくないので真実をちゃんと話す。


 実際は三度見はしたけど、そこは良しとしておこう。

 どんな表情かも、体位も、全部この目に焼き付いているけど、見たのは一瞬を三回だけだ。


 俺の中の一瞬が人よりもちょーっとだけ長いのは、また別の話。

 そして、息子もそれに敏感だったのは、これまた違う話だ。


「ホントにちょっとだけ?」


「嘘言うかよ。通りすがりに目に入っただけだ」


「ドア、閉まってたでしょ? もしかして廊下に声漏れてた……とか?」


 そのセリフ、ほぼNGワードだと思うんだが? いや、気にしない気にしない。


「ドアは少し開いてたな。覗けるくらいには」


「え、嘘……」


「ついでに声も駄々漏れだった。多分廊下中に響いてたんじゃないのか?」


「……っ!」


「よかったな~誰も通らなくて」


「ちゃんと確認したはずだったのに……私はなんて失態を……」


「ドアが閉まってたとて声は漏れてたと思うぞ?」


「私、そんな声大きかったの……?」


「あぁ。もの物凄かったな」


 声の大きさと、エロさの二つの意味で。


「最悪すぎる……やっぱ学校はダメだったんだよ……」


 自分の失態に、両手で顔を隠す未奈。

 そうだぞ。学校であんなことしちゃダメなんだ。俺もバレてるわけだし、百発百中バレるってわけだ。


 まぁ、他の生徒がシてる可能性も無きにしも非ずだけど……。


「んで? 俺のときはどうだったんだよ。どっからどこまで見てたんだ?」


 羞恥に染まらせてる暇もなく、俺は未奈に質問返しをする。


「私も、ちょっとだけだよ?」


 手と手の隙間からひょいと顔を覗かせながら言う未奈であったが、あからさまに俺から目を逸らす。


「おい、嘘ついてるな」


「いや? ついてないけど?」


「ちゃんと俺の目を見て言え。あと声が裏返ってるんだよ」


「き、気のせいじゃないかな?」


「十七年一緒に居て分かるだろ? 俺がそんなアホじゃないくらい」


「……ですよね」


 相変わらず嘘が下手だな、俺と同じで。流石、幼馴染だ。


「ちょっとだけじゃないんだよな。見てたの」


「そう……だね」


「ちなみに、どのくらい」


「結構、その……長居はしたかもしれないね?」


「正直に話せ、今なら許せる。ていうか、この状況は俺も何も言えないし、許すもクソもない」


 もしも最初から最後まで見てたとても、問い詰めることすらできない。

 ただ俺が恥ずかしいだけの話だ。


 だって、この話はお互い認識しているだけで、明確に内容を定義してないんだからな。

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