第3話 逆ラッキースケベ
「というか、自分から話を掘り返してどうする。忘れるっていう約束だろ」
「んなこと言ったって、記憶を消さない限りあんなの頭の片隅どころか大半をそのことで埋められてるんですけど!」
「俺もそうだけど……この件はなかったことにしといた方がお互いのためだ。言葉にしなきゃ、真実にならない」
「……まぁ現実逃避にはいいかもね」
そう。現実逃避は大事。
何事も、深く考えないことも幸せに生きることには重要だ。
人と人とが生活するにあたって、知らない方がいいこともある。
それがいくら幼馴染であっても、だ。
幼馴染だからなんでも知ってると自負していても、こうやって知らないこともあるわけで。
「意外な一面ってことで、俺は自分で納得しよう。ま、何も見てないし聞いてないんだけど」
言い方を悪くすれば、幼馴染はビッチだったという衝撃的な事実だ。
一体何人とこれまでシていたんだ、とツッコミたいのは山々だが、そんなの本人に聞けるわけもなく……。俺も同じ質問をされたとて、答えたくないしな。
正直、答えたくないというよりも答えられない。何人とこれまでシたなんて……うん。覚ええてないからな。
ある一定数を超えたあたりから、めんどくさくて数えるのを辞めてるわけだし。
今更ヤった人数なんて、分かるわけがない。
未奈も律儀に物事を覚えるタイプではないから、人数をいちいち数えることなんてしないだろう。
「てか、そろそろどいてくれない? 重いんですけど」
未奈の肩を掴むと、ひょいと横に退けようとする。
話に夢中で馬乗りになられることをすっかり忘れていた。
そろそろ腹筋の限界が近い。あと、少しでも下にズレると俺の息子に擦れてしまう。
元気になってるから尚更当たりやすい。
「あ、ごめん」
俺を眺めると、ハッとした未奈は体を跨いで俺の上から降りようとする。
気を遣って慎重に退こうとしてくれたのはいいものの、
「……んっ」
「――っ‼」
上げた足が、俺の息子のてっぺんに見事に擦れる。
感触に気付いた未奈は、かぁっと顔を赤くする。
俺もつい情けない声を漏らしてしまった。
おいおい、普通ラッキースケベは逆だろうが。
なんで俺がスケベされなきゃいけないんだよ。
俺が未奈の胸にタッチするとかが定番のはずなのに。
それに、触り慣れてるだろうになんで顔を赤らめてるんだ? そんなに幼馴染のは恥ずかしいのか? 他の男子の前では平気でいやらしい顔をするくせに。
なんだよ……触られ損すぎる。まぁちょっと擦れただけだけど。
なんとも言えない空気が、部屋の中に流れる。
ペタンと床に乙女座りをして、俯きながら顔を赤らめる未奈。その横で、気にしない素振りを見せる俺。
そんな中、ポツリと未奈は呟く。
「ち、ちなみになんだけど……どこまで見てた……の?」
「どこまでって、だからその話は忘れる約束だろ?」
「ち、ちがっ! 別に話の内容を特定してるわけじゃないからいいでしょ!」
「でもなぁ……」
「そっちこそ、ただの私の素朴な質問をあの話に繋げる方がどうかと思うけど?」
「……んまぁ、確かに」
何の話かは定義してないもんな。決して俺たちはあの話をしているわけではない。
はぁ……何言ってんだよ俺たち。ホントバカだ。
でも、その件に関しては気になって仕方がない。
このままモヤモヤを残して解散するよりも、色々と聞き出してから帰るほうが俺も心残りがない。
未奈も相当気になってるだろうから、ここは特定のワードと地雷を踏まないように質問合戦とするか。
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