呪われたおもちゃ
伊田 晴翔
呪われたおもちゃ
僕が小学校二年生になった頃、お母さんが中古のおもちゃショップで音楽の鳴るおもちゃを買ってきた。
既存の動物なのか、架空の生き物なのか分からないが、二本足で立ち、見たことのない楽器を手にしている茶色いおもちゃだった。
「安かったし、タケちゃんなら気に入るかなと思って」
そのお店からタダ同然で貰い受けたという、音のなる、不気味なおもちゃ。
背中についているボタンを押す。
すると。
『デンデンデレデンディロデンデン!』
気分が悪くなるような、妙に大きく嫌なメロディが三十秒ほど、鳴った。
僕も、僕の四つ上のお姉ちゃんも、そのおもちゃに気味の悪さを感じていたものの、お母さんが嬉しそうにしていたから「いらない」とは言い出せなかった。
「ありがとう」と受け取ったはいいが、楽しく遊べるわけもなく、僕はそのおもちゃの電池を抜くと、すぐに押し入れの一番奥に隠してしまった。
その日の夜。
僕は子供部屋の中央に敷かれた布団で寝ていると、すぅすぅと何かが床を這うような音が聞こえてきた。目を覚まし、時計を見ると、午前二時をまわった頃だった。
隣にいるお姉ちゃんは寝息を立てて眠っていた。
目を閉じる。
すると、すぅすぅと、また音が聞こえる。
薄めを開けると、やっぱりお姉ちゃんは眠っていて、いたずらをしている様子もない。
怖くなってきて、僕はギュッと、目を瞑った。
すぅ、すぅ、すぅ。
その音は、僕たちの頭のほう、右から左に抜けて、すぅすぅと這っているようだった。
怖くて目を開けることはできないが、その音がどこに向かっているか、何となく分かった。
押し入れだ。
すぅ、すぅ、すぅ……。
音が消えた。
『デンデンデレデンディロデンデン!』
「うわぁ!」
「きゃあー!」
僕とお姉ちゃんは叫んだ。
隣の部屋で寝ていた両親が慌てて駆けてくる。
「どうした」
「おもちゃが、突然鳴ったんだ」
「何ぃ、夜中に遊ぶなよ」
そう言って、お父さんは電気を点けると、おもちゃを探した。
「どこにあるんだ」
「押し入れのなか」
僕はそう言うと、押し入れを指差す。
お父さんは押し入れから、お母さんが買ってきた不気味なおもちゃを拾い上げた。
「これか?」
「そ、そう……」
お父さんがそのおもちゃをいじる。「あれ?」
「どうしたの?」
お母さんが訊いた。
「これ、電池入ってないぞ?」
次の日。
そのおもちゃは、すぐに処分した。
どうして電池の入っていないおもちゃの音楽が鳴ったのか、子供部屋を這っていたあの音の正体が何だったのか、それは今でも分からない。
呪われたおもちゃ 伊田 晴翔 @idaharuto
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