第25話 結婚

 大学の講義が始まる前に、席に座ってスマホをいじっていると……隆介が俺の隣の席に座って話しかけてきた。


「よっ、日向」

「よっ、隆介……」

「どうした? 俺の知ってるお前ではないように見えるが……」

「あはは、ちょっと色々ありすぎてな……疲れてんだよ……」


 そんな会話をした後、俺は隆介に事の顛末を話して聞かせた。


「なるほどな……。つまりお前は、西園寺に遊ばれてしまったということか?」

「まぁ、そんな感じかな……」

「それで、お前はこれからどうするつもりなんだ?」


 そう質問された俺は少し考えた後で答えた。


「そうだな……。とりあえず今は大学での生活に慣れるのが先決かなって思ってる」


 俺がそう言うと、隆介は納得したように頷いた後に言った。


「確かにそれが一番だな。それに、お前ならきっと上手くやっていけるように思う」

「隆介……」


 そんな励ましの言葉に対して感謝の気持ちを伝えるために、俺も笑顔で返したのだったーー。


 それから数日が経ちーー季節は夏になった。今日は大学が休みであり、特に予定がなかった俺は、家でのんびり過ごすことにした。そんな中でインターホンが鳴り響き、玄関へと向かうとーーそこにはれのちゃんの姿があった。彼女は俺の顔を見るなり、嬉しそうな表情を浮かべながら話しかけてきた。


「坂柳さん、こんにちは」


 そんな彼女に対して、俺は笑顔で挨拶を返すことにする。


「こんにちは。ところでどうしーー」


 すると彼女は突然、俺の腕を掴んできた。驚いてしまったものの、俺はすぐに落ち着きを取り戻す。そして彼女に尋ねた。


「えっと……どうしたの?」


 すると、彼女はこう答えた。


「実は、坂柳さんにお願いがあるんです」


 そう言われてもまだ状況が理解できていなかった俺は、とりあえず彼女の話を聞くことにしたのだったーー。


 それかられのちゃんに連れられてやってきた場所は、とある喫茶店だった。中に入ると店員に案内されて席に着くことになったわけだがーーそこでようやく彼女が口を開いた。


「それで……俺にお願いって何?」


 そう尋ねると、彼女は真剣な表情で答えた。


「私と……結婚してください!」


 それを聞いた瞬間、俺は思わず固まってしまった。そしてすぐに我に帰るとーー改めて彼女に向かって言った。


「えーと……冗談?」


 しかし、彼女は首を左右に振ると言った。


「冗談ではありません!」


 そんな告白を受けて動揺してしまう俺だったが、なんとか心を落ち着けて彼女に質問してみることにした。


「どうして突然、結婚してくれなんて言うの?」


 すると、彼女は少し間を置いてから答えた。


「それは……妊娠してしまったからです」

「……えっ?」


 そんな予想外の言葉に驚いていると、彼女が続けて言った。


「だから……私と結婚してくださーー」


 そこまで言いかけたところで、俺は慌てて彼女の言葉を遮るように言った。


「ちょ……ちょっと待ってよ! 妊娠ってどういうこと!? 俺とれのちゃんの子供なの!?」 


 すると、彼女は首を縦に振った。どうやら本当らしい……。


「はい……坂柳さんと私の子供です」


 そんな衝撃的な発言に対して、俺は何も言えずに固まってしまったがーーそこで、れのちゃんは更に言葉を続けた。


「なので、私と結婚して子育てをしましょう」

「突然、子育てをすると言われてもーー」


 そんな俺の言葉を遮るようにして、彼女は言葉を続ける。


「大丈夫です! 私も一緒に責任を持って育てますから!」


 そんな自信満々の彼女の様子を見て、俺は思わず納得してしまいそうになってしまう。しかしーーすぐに我に帰ると、再び考え直すことにしたのだった。


 それからしばらくの間沈黙が続いた後、ようやく考えがまとまった俺は口を開いた。


「わかったよ……結婚して幸せな家庭を築こう。もちろん、責任をもって子育てもする」


 俺がそう答えると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべて言った。


「ありがとうございます! それでは早速、私の両親に会いに行きましょう」

「えっ……これから!?」


 そんな俺の言葉に対して、彼女は笑顔で頷くのだったーー。

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