第5話 ドラブルダークネス

「こ、これってもしかして……」


 俺がそう呟くと、れのちゃんは恥ずかしそうにコクリと首を縦に振った。そして、彼女の口から衝撃的な事実が語られるのだった。


「私……『ドラブルダークネス』の大ファンなんです!」

「へ……?」


 俺は思わず間抜けな声を出してしまう。しかし、れのちゃんは構わず話を続けた。


「このゲームは主人公が魔王になって、ヒロインとイチャイチャするという内容なんですけど……それがすごく面白くて! 特にヒロインたちが主人公に惹かれていく描写が最高なんですよ!!」

「へ、へぇー」


 俺は苦笑いを浮かべつつ答えた。しかし、れのちゃんは全く気にしていない様子だ。それどころか楽しそうに語り続けている。そんな彼女の姿を見ていると、不思議と微笑ましい気持ちになった。そして同時に嬉しく思うのだった。


(れのちゃんがこんなに楽しそうに話すなんて……よっぽど好きなんだろうなぁ。ドラブルダークネスのことが……)


 そんなことを思っているうちに、話は一段落着いたようだ。れのちゃんは興奮気味に操作方法について説明し始めた。


「それでですね! まずは主人公を選べるんです!」

「ほほう」

「主人公は魔王になる前は普通の人間なんですけど、ある日突然異世界に転移してしまうんです!」

「なるほど……。それで?」

「目を開けると主人公は勇者ではなく魔王になっていて、魔王の力を手に入れた主人公は、その力を悪用し始めます! それがヒロインたちとの恋愛フラグを折ってしまう原因になってしまうんですね!」

「な、なんで!?」


 俺は思わずツッコミを入れてしまった。しかし、れのちゃんは全く気にすることなく話を続ける。


「でも、最終的には改心するんです! そして、主人公とヒロインたちとのラブストーリーが始まるんですよ!」

「へぇー」


(なんかすごいゲームだな……)


 俺は心の中でそう思ったが、口には出さなかった。そんな俺を見たれのちゃんは嬉しそうに笑った。


「というわけで、坂柳さん……一緒にプレイしましょう!」

「う、うん」


 俺はコントローラーを握りしめて画面に向き直った。しかし、その瞬間――れのちゃんはハッと何かを思い出したような表情になり、慌てて口を開いた。


「あ! ちょっと待ってください!」

「え? どうしたの?」


 俺が尋ねると、れのちゃんは申し訳なさそうにこう言った。


「実は……このゲームは一人用なので……」

「ん? ということは……」


 俺がそう言いかけると、れのちゃんは首を縦に振った。そして彼女は、衝撃的な言葉を発する。


「はい! 坂柳さんに一人でプレイしてもらいます!」

「え!?」


 俺は驚きを隠せなかった。まさか自分がエロゲーを一人でやらされることになるとは思わなかったからだ。しかし、断るわけにもいかないので素直に従うことにする。


「わ……わかったよ」

「それじゃあ、早速始めましょう!」


 れのちゃんが興奮気味に言った後、俺はゲームを開始した。すると、画面には主人公とヒロインたちが表示されている。


「まずは主人公の設定ですね! 性別や名前を決めることができます!」


 俺は画面を見つめながら考えた後――名前を入力した。


「こいつの名前は、古坂柳こさかやなぎヒナ太郎だ」


 そして、主人公とヒロインたちの設定が終わり、いよいよ本編が始まった。れのちゃんは興奮気味に俺に話しかけてくる。


「始まりましたよ!」


(うう……なんだか緊張するなぁ)


 俺は緊張しつつもゲーム画面に視線を移した。すると、主人公らしき人物がいきなりこんなことを言い出したのだ。


「俺は魔王! 女はみんな俺のものになるんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

「「……はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?」」


 俺とれのちゃんは全く同時に叫んだ。しかし、そんな俺たちの声に反応する者は誰もいない。


「な、なんですかこれ!? 主人公がいきなりとんでもないことを言い出しましたよ!」

「う、うん。そうだね……」


 俺は戸惑いつつも答えた。すると、れのちゃんは更に質問を投げかけてくる。


「ど、どうして主人公はこんなことを言い出したんでしょう?」


 俺は少し考えた後に、こう答える。


「うーん、俺もよくわからないけど……多分、ゲームのアプデの影響とかかな?」


 俺がそう答えると、れのちゃんは大きく首を縦に振った。そして、目を輝かせながら口を開く。


「な、なるほど! そういうことですか!」

「多分だけど……」


 俺が苦笑いを浮かべると、れのちゃんは大きく深呼吸をした。そして――勢い良く頭を下げた。


「坂柳さん、お願いします! このシーンを私にやらせてください!」


 俺は一瞬戸惑ったが、すぐに承諾することにした。なぜなら俺は、れのちゃんの頼みならなんでも聞いてしまうからだ。


「うん、いいよ」

「ありがとうございます!」


(推しの笑顔を見られるのなら、これくらいなんてことないさ!)


 俺が心の中でそう思っていると、れのちゃんは早速行動に移したようだ。


「それじゃあ……いきます!」


 れのちゃんは緊張した面持ちでゲーム画面を操作し始めた。そして、主人公のセリフを選択する。


「はうっ!」


 れのちゃんが可愛らしい声を上げると同時に、ゲーム画面には『ヒロイン1』と表示されている。どうやらこのシーンでは、ヒロインが主人公に恋をするらしい。


(れのちゃんの反応を見る限りだと、このシーンはかなり重要なんだろうなぁ……)


 俺がそう思っていると、ゲーム画面に選択肢が表示される。


 そこにはこう書かれていた。


『1,抱きしめる』

『2,キスをする』

『3,押し倒す』

『4,その他』


「ほ、星宮さん? これは一体……」


 俺は戸惑いつつ尋ねる。しかし、れのちゃんは興奮しているのか俺の言葉が聞こえていないようだ。ただひたすらゲーム画面を見つめている。


「ど、どれにしよう……。どれも捨て難い……」


 れのちゃんは真剣な表情で呟いた。そして――意を決したように口を開く。


「き、決めたっ!」


 そう言ってれのちゃんが選択したのは『4,その他』だった。


 その瞬間、ゲーム画面上に再び選択肢が表示される。


『1,ベロチュー』

『2,服を脱がせる』

『3,足を舐める』

『4,全身を触る』


「ふ、ふえぇ……!?」


 れのちゃんは顔を真っ赤にして固まってしまった。俺はそんな彼女の様子を見て、苦笑いすることしかできなかったのだった。

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