第3話 疑似ショッピングデート

 れのちゃんが俺と同じアパートに引っ越してから数日後のことだった。この日は休日で、俺は朝からに行っていた。その帰り道――信号が青に変わるのを待っているときだった。


「あ! 坂柳さん!」


 聞き慣れた声の方へと振り向くと、そこには笑顔で手を振るれのちゃんの姿があった。


(か……可愛すぎるだろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!)


 俺は心の中でそう叫んだ。しかし、そんな気持ちを悟られぬよう平然を装って返事をする。


「星宮さんもお出かけ?」

「はい、ちょっと用事があって……」


 俺はその一言に疑問を抱いた。


(どんな用事だろう?)


 そう思いつつも、俺はれのちゃんに返事をする。


「そうなんだ。……それじゃあ俺はこれで失礼するね」

「ま、待ってください!」


 帰ろうとした俺の腕をれのちゃんは掴んだ。そして上目遣いで俺を見る。その顔は真っ赤に染まっていた。そんな光景を見て、俺の顔も真っ赤に染まるのだった。


「ど、どうかしたの?」

「その……よかったら一緒に……買い物に行きませんか?」


(……まさかのお誘いきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!)


 俺は心の中で絶叫した。しかし、そんな内心を悟られぬように冷静さを保つ。そして冷静を装って返事をした。


「うん、行こうか……買い物」

「やったぁ!」


 れのちゃんは嬉しそうな表情をしている。俺はそんな彼女を見て思わず微笑んでしまった。


 そして俺たちは、疑似ショッピングデートをすることになったのだった。


☆★☆★


 俺たちが訪れた場所は、大型のショッピングモールだ。そこでは様々な店舗が揃っている。


「どこから回る?」


 俺がそう尋ねると、れのちゃんは顎に手を当てて考えるような仕草をする。そして、ハッとした表情になった。


「あ、そうだ! 私、服を買いたいんです!」


(ハッとした表情……可愛すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうう!!)


 俺は心の中で再び絶叫した。しかし、そんな気持ちを悟られぬよう平然を装って返事をする。


「それじゃあまずは、服屋さんから回ろうか」


 そう言って俺たちは服屋に向かった。


 服屋に着き、店内に入ると……様々な種類の洋服が並んでいる。れのちゃんは目を輝かせながら洋服を眺めていた。


「うわ~! どれも可愛いなぁ!」


 そんな呟きを聞いて、俺はドキッとしてしまった。そして、れのちゃんの全身を舐め回すように見てしまった。


「あ、あの……坂柳さん? そんなにジロジロ見られると恥ずかしいです……」

「え!? あっ、ごめん!」


 俺は慌てて目を逸らす。しかし、どうしても視線は彼女の方へと向かってしまう。


(落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!! 俺ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!)


 そう自分に言い聞かせながら、れのちゃんに尋ねる。


「星宮さんはどんな服が欲しいの?」


 俺がそう尋ねると、れのちゃんは頬を赤く染めた。そして恥ずかしそうに答える。


「あ……あのっ……こういう可愛い感じの服が欲しくて……」


 そう言うとれのちゃんは、俺に一枚のシャツを見せるように差し出した。そのシャツには可愛らしいキャラクターが描かれている。


「へぇー、そうなんだ」

「はい。でも、どれが似合うかわからなくて……」


 そう答えたれのちゃんの表情は少し悲しげだった。そんな彼女の顔を見て、俺は思わず声をかける。


「じゃあ、俺が選んであげるよ」


 すると、れのちゃんは驚いた表情を浮かべた後、嬉しそうな表情になった。そして俺の手を握ると、上目遣いで見つめてきた。その表情にドキッとすると同時に鼓動が激しくなるのを感じた。


「ありがとうございます! 坂柳さん!」


(可愛い、可愛い、可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!)


 そんな感情が爆発する中、俺はれのちゃんに似合いそうな服を探し始める。


 そして、ある一着の服を見つけた。


 それは――白いワンピースだった。


「これはどう?」


 俺がそう尋ねると、れのちゃんは目を輝かせながら答えた。


「はい! それがいいです!」

「じゃあ、これ買ってくるね」


(れのちゃんの服……ゲットだぜ!)


 そんな邪な思いを抱きつつも、俺は会計を済ませるのだった。


☆★☆★


 買い物を終えた俺たちは、ショッピングモール内のフードコートに来ていた。


「あの……買ってもらっちゃってすいません」


 れのちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。そんな彼女の様子を見て俺は、慌てて首を横に振った。


「いやいや! 全然気にしないで! 俺が勝手に選んだんだから!」


(なんだか悪いことをした気分になるから、そんな顔しないでくれよ~!)


 俺が心の中でそう思っていると、突然れのちゃんは俺の手を握ってきた。そして、上目遣いで見つめながら口を開く。


「ありがとうございます。坂柳さん……」


 その瞬間――俺は鼻血を出して倒れそうになった。しかし、なんとか耐える。


「い、いや! どういたしまして……」


 れのちゃんに動揺を悟られないよう冷静さを保つと、俺は彼女の手を優しく握り返した。


(推しの手を握れるなんて……幸せすぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうう!!)


「……さん。坂柳さん?」

「えっ……あ、はい!?」

「どうかしました? ボーッとしてましたけど……」

「い、いや! なんでもないよ!」


 俺がそう言うと、れのちゃんは不思議そうに首を傾げた。しかし、それ以上追求されることはなかった。そして話題を変えるように彼女はこう言った。


「あの……坂柳さんって何か趣味とかありますか?」


 俺は少し考えてから答える。


「うーん……今は特にないかな。星宮さんは何かあるの?」

「私も特には……。あ、でも、ゲームならよくします!」


 れのちゃんは笑顔でそう言った。しかし、その笑顔はすぐに曇ってしまう。そして俺は自分が地雷を踏んでしまったことに気がついた。


「ご、ごめんね! 嫌なこと聞いちゃって……」


(もしかして、れのちゃんってゲームをすることがコンプレックスなのかな?)


 俺はそう思ってしまったが、すぐに自分の勘違いだと悟った。


 なぜなら――。


「いえ! 気にしないでください! 私、坂柳さんに隠し事はしたくないですから!」

「え……?」


(それってどういう意味だ?)


 俺がそう思っていると、れのちゃんは恥ずかしそうに頬を染めた。


 そして――彼女の口から衝撃的な事実が語られるのだった。


「私、ゲーマーなんです」

「……へ?」

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