第2話 本物か偽物か

 俺は困惑していた。


(嘘だろ!? まさか、そんなはずが!? こんなボロアパートに、れのちゃんが引っ越してくるわけ――そうだ。この人は……れのちゃんのそっくりさんだ! そうに違いな――)


「あ、あの、助けてください!」

「えっ……た、助ける?」

「部屋の中に大量のゴキブリがいて……とにかく助けてください!」


(ゴキブリ?)


「わ、わかりました。部屋の中に入りますよ!」


 俺はそう言うと玄関の扉を開き、恐る恐る部屋の中に入る。すると、無数のゴキブリが這いずり回っているのが見えた。


(俺は一体何をしているんだ? つうか、何がどうなってんだよ! この人はれのちゃんのそっくりさんで合ってるのか? それとも――いや、今はそんなことよりゴキブリを駆除することだけを考えろ!)


「ゴ、ゴキジェットとかってありますか?」

「ゴキジェットですか!? ごめんなさい! そんなものありません!」


 そう言うと、れのちゃんらしき人は俺を盾にしてじっとしている。

 

 すると、突然ゴキブリは俺に向かって飛びついてきた。俺は思わず悲鳴を上げる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァアア!!」


 そんな俺を他所にゴキブリたちは次々と俺に襲いかかってくる。


「も、もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」


 俺がそう叫んだ瞬間――俺は、れのちゃんらしき人に押し倒されて床に転がり込んだ。そして、それと同時にゴキブリが床に落ちる音が聞こえた。


「あ……あの……」


 俺は顔を真っ赤にしながら、れのちゃんらしき人に話しかける。すると、れのちゃんらしき人は俺の上から降りて立ち上がった。


「ご、ごめんなさい! 私のせいでこんなことになってしまって……」


(いや、別にいいんだけどさぁ……)


 俺はそう思いながら立ち上がると、服に付いた汚れを払う。


「えっと……と、とりあえず一旦外に出ましょうか」


 そう言うと俺は玄関の扉を開き、れのちゃんらしき人を外に出す。そして俺も外に出て、空を見上げた。すると、ふと隣から視線を感じた。そちらの方を向くと、俺の隣に立っていたれのちゃんらしき人がこちらを見ていた。


「あ、あのっ……!」

「は、はい! なんですか!?」

「私、隣に引っ越してきたと言います!」


(……そっくりさんじゃなかったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!! 星宮れのちゃん……本人が隣の部屋に引っ越してくるなんて! まるで夢を見ているようだ! ああ、生きててよかったぁぁぁぁぁぁぁぁ……)


 俺は昇天しそうになるが、気を確かに持つ。


「そ、そうですか……。俺は坂柳日向って言います」

「えっと……その……よろしくお願いします。坂柳さん……」

「は、はい……」


(照れてる顔も可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!)


 俺がそう思っていると、れのちゃんが口を開いた。


「あの、坂柳さん……」

「はい?」

「その……もしよろしければ……私とお友達になってくれませんか?」


 俺は一瞬何を言われたのか分からなかったため、すぐに聞き返す。


「え? 友達に、ですか……?」


 すると、れのちゃんはコクリと頷く。そして恥ずかしそうに頬を赤く染めた。


「ダメ……ですか……?」


 俺はそんな彼女を見てこう思う。


(めっちゃエロくて可愛いんだけどっ!)


「い、いえ、全然いいですよ。むしろ大歓迎です」


 俺がそう言うと、れのちゃんは嬉しそうな表情をする。


 そして――俺とれのちゃんは握手を交わした。


「これからよろしくお願いします! 坂柳さん!」

「こちらこそよろしく。れのちゃ――ゴホン! 星宮さん」


(ああ、幸せすぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうう!!)


 こうして俺とれのちゃんは出会い、友達になったのであった。

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